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「肝を冷やしたぜ・・・」
走り去って行く一団を見送りながら、男たちはホッと胸を撫で下ろした。
「赤い腕章を見たか、いまのは特別攻撃隊の第三部隊だ」
大柄の男が言った。
「すると、あの先頭をいく女剣士が赤い流星と呼ばれる女か。間近で見るのは初めてだが、噂通りのいい女だぜ」
細身の男がうっとりとした表情を浮べている。
「間違いねえ、あの女が赤い流星のマリーだ。俺は戦場の野営地で何度か見かけたことがある。もっとも、むこうは俺の顔なんか覚えちゃいねえだろうがな」
男が唇を噛みしめながら、忌々しそうに言う。
「同じ傭兵として国軍に入隊したにもかかわらず、こっちは終戦と同時に解雇されヤクの売人にまで落ちぶれちまった。あの女は治安維持部隊からお声がかかり、いまじゃ特別攻撃隊の部隊長にまで出世していやがる」
「犯罪者の中には赤い流星と聞いただけで震え上がる連中も多いらしいぜ、剣の腕もかなりのもんなんだろうな」
「所詮は女だ、剣の腕なら俺と大差はねえさ」
男はそう言って、卑猥な笑みを浮べた。
「男と違って、女には剣にも勝る武器があるからな。男所帯の軍隊でも、女剣士というだけでちやほやされていい気になっていやがった。素性の知れねえ傭兵の身で治安維持部隊に入隊できたのも、女剣士が特別攻撃隊の部隊長に就任できたのも、色仕掛けで上層部の連中に取り入ったに違いねえ。淫売が一人前に剣士を気取りやがって、反吐が出るぜ」
「そうはいっても、それなりの実力がなけりゃ部隊長なんか務まらねえだろう。なにしろ治安維持部隊の中でも武闘派で知られる特別攻撃隊の部隊長さんだぜ」
細身の男が納得できない様子で聞き返した。
「お前はなんにも知らないんだな。部隊長は後ろで指揮さえ執ってりゃそれでいいのさ、戦闘で血を流すのはいつも下っ端の兵隊たちだ。肩書きさえ与えてやりゃあ、女でも十分務まる仕事なのさ」
「悪いな。俺はお前と違って貧しい農民の出だ、剣の心得も無けりゃあ戦争に参加したこともねえのさ」
細身の男が、すねたようにそっぽを向いた。
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