第一章 赤い流星  二 戦場の英雄

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「危うく右腕を切り落とされるところだった」  男が、右の二の腕に巻かれた包帯に目をやった。包帯には血が滲んでいる。  指先で包帯越しに傷口をなぞりながら、男は頼もしげな笑みを浮かべた。 「まだいたんだな、あのような剣士が・・・」  目の前に立ちはだかった女剣士の姿が瞼に焼き付いていた。金色の髪の毛が鬣のようになびいて、獲物を狩る獣の眼光が見据えていた。 「あれが、赤い流星と呼ばれる女か」  特別攻撃隊の部隊長を務める女剣士の噂は耳にしていたが、長い軍歴をもつ者にとって組織の中で女が男の上に立ち部隊を率いることなどありえないことだった。  国民に向けての話題作りか、政治家たちの人気取りか、いずれにしても治安維持部隊のお飾りとして担ぎ出された操り人形に過ぎないと見なしていたが、実際にその姿を目の当たりにして、男は自分の考えを改めないわけにはいかなかった。 「久しぶりに、差しの勝負がしたくなった」  男は杯を掲げると、まるで祝い酒でも煽るようにして、嬉しそうに喉を鳴らした。
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