第一章 赤い流星  二 戦場の英雄

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 いつの間にか、娘の嗚咽がやんでいた。眉をしかめ、落ち着かない様子で、もじもじと腰のあたりを揺すっている。 「お手洗いにいかせて・・・」  娘が囁くように言った。男は素知らぬ顔で、酒を飲み続けている。 「お願い、お手洗いにいかせて」  娘が語気を強めた。 「またそうやって、俺をあざむくつもりだろう」  男は探るような眼差しで、娘を見つめた。 「違うわ、本当よ」 「どうだかな・・・」  おとなしくしているという約束で一度は縄を解いてやったが、娘は隙を見て逃走を図った。  ドアに駆け寄って助けを呼ぶ娘を引き戻し、男は再び手首を縛ったうえに身体を椅子に括りつけたのだった。そして、泣きわめく娘を諭すようにして、ドアには鍵がかかっていること、周辺に人が出入りする建物はなく、助けを求めても無駄であることを言い聞かせた。  娘はようやく観念したが、再び縄を解いてやる気にはなれなかった。 26a8bbe3-5a7a-493d-8b94-0f29f5145893
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