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「おい、貴様。そこで何をしている」
視界の外から男の隙を突くようにして、治安部隊の隊員たちが近づいてきた。帽子の帯と詰め襟の赤い黒地の制服で、腰にはタムール国の紋章が刻まれた重厚な長剣を下げている。
二人とも身なりだけは一人前だったが、男の目にはまだ尻の青い若僧にしか見えなかった。
「ただ通りを眺めていただけさ、怪しい者じゃねえぜ」
「怪しいかどうかは貴様が決めることじゃない。腰の剣から手を放せ、両手を壁につくんだ」
小柄で黒縁眼鏡をかけた隊員が、手にした警棒で男の右肩を叩いた。男はやれやれといった表情で、壁に両手をついた。
「ずいぶんと物々しいじゃねえか、いったいなんの騒ぎだ」
「黙れ。質問するのは我々だ!」
もうひとりの隊員が声を上げた。肩幅の広い骨太の体格には不似合いな、かん高い女の悲鳴のような声だった。
黒縁眼鏡が男の長剣を腰の鞘から抜き取って、無造作に路地の奥へと放り投げた。抜き身の長剣が散乱した生ゴミの上を転がって、油で濁った水溜まりの中に落ちると、男は眉間に皺を寄せながら黒縁眼鏡を睨み付けた。
「なんだその目は、何か言いたいことでもあるのか」
「もう少し丁寧に扱えよ。剣士にとって剣は魂そのものだ、場合によってはただではすまねえぜ」
「笑わせるな、貴様のどこに剣士の威厳がある」
薄汚れたコートをまさぐりながら、黒縁眼鏡が男を睨み返した。骨太の隊員は腰の長剣に手をかけて男の動きを警戒している。
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