第一章 赤い流星  一 赤い腕章の一団

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「ボスから指示があった、今夜の取引は中止だそうだ」  不意に、細身の男が路地の奥から声をかけた。 「取引相手は、とっくに賭博場から姿を消してるとさ」 「無理もねえ。俺たちも早いとこずらからねえと、職質でもかけられて鞄の中身を調べられたら一発で監獄行きだ」  大柄の男は剣を鞘に収めながら、足早に路地を引き返した。 「なんだ、どうかしたのか?」 「なんでもねえ」  男が苛立つように言った。細身の男は怪訝な表情を浮べて、後を追いかけていく。 「警察隊に治安部隊、そのうえ警備隊まで出張ってやがる。いったいなんの騒ぎだ」 「今夜、貴族の屋敷にひとりの賊が押し入ったらしい。なんでも、その男が娘を人質にして逃亡したって話だ」 「そうだとしても、たかが盗賊ひとりに大がかり過ぎやしねえか」 「その盗賊が首狩りシモンと聞けば、元国軍兵士のお前なら納得もするだろう」 「シモンだと!」  男が足を止めて振り返った。表情を強張らせ、顔からはみるみる血の気が失せていく。
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