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「ボスから指示があった、今夜の取引は中止だそうだ」
不意に、細身の男が路地の奥から声をかけた。
「取引相手は、とっくに賭博場から姿を消してるとさ」
「無理もねえ。俺たちも早いとこずらからねえと、職質でもかけられて鞄の中身を調べられたら一発で監獄行きだ」
大柄の男は剣を鞘に収めながら、足早に路地を引き返した。
「なんだ、どうかしたのか?」
「なんでもねえ」
男が苛立つように言った。細身の男は怪訝な表情を浮べて、後を追いかけていく。
「警察隊に治安部隊、そのうえ警備隊まで出張ってやがる。いったいなんの騒ぎだ」
「今夜、貴族の屋敷にひとりの賊が押し入ったらしい。なんでも、その男が娘を人質にして逃亡したって話だ」
「そうだとしても、たかが盗賊ひとりに大がかり過ぎやしねえか」
「その盗賊が首狩りシモンと聞けば、元国軍兵士のお前なら納得もするだろう」
「シモンだと!」
男が足を止めて振り返った。表情を強張らせ、顔からはみるみる血の気が失せていく。
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