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「元メシュール国軍の英雄。戦場では首狩りシモンと恐れられた、あのシモンか!」
「お前はタムール国軍の傭兵として、メシュール国との戦争に参加してたんだろう。戦場でシモンと剣を交えたこともあるって聞いてるぜ」
「剣を交えたなんてとんでもねえ。崖から転げ落ちて命拾いしただけだ、逃げるだけでも精一杯よ。この首が繋がっていることが、いまでも信じられねえくらいだ」
大柄の男はそう言って、汗ばんだ首筋に手を当てた。
「俺のいた傭兵部隊はシモン一人に全滅させられたんだ。目の前で仲間の首が次々と狩られていくのを、何もできずに見ているしかなかった。あの時のことを思い出すと、いまでも背筋に悪寒が走る。あいつは人間じゃねえ、化け物だ」
男は思わず身震いした。シモンが近くに潜んでいると考えただけでも、恐怖で身体の震えが治まらなかった。
「急いでこの一帯から離れるんだ。奴と鉢合わせでもしたら、その瞬間に首を狩られちまう!」
男は声を上げて、薄暗い路地を駆け出していく。
「待てよ、そんなに慌てることはねえだろう」
男のあまりの狼狽ぶりに、細身の男は呆気にとられた。
傭兵として国軍に入隊し、戦後は密売組織の用心棒として雇われたやさぐれ剣士だった。普段から数々の武勇伝を誇らしげに吹聴しながら威張り散らしている男が、まるで子猫のように怯えている姿が滑稽だった。
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