タンホイザー序曲

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 このシューズを渡されたのは昨日の夕方。  持って来たのは青木瞬矢。  奇しくも私の息子、飯島俊也と同じ名前の新人だ。  青木は私の率いる開発部に、この春から配属になった生意気で扱いづらい若造だ。噂では本部で煙たがられ、開発部に飛ばされて来たらしい。 我が開発部は日々、新しいシューズの企画開発を行っている。 陸上選手の経験を買われて、私はこの部署で部長をしている訳だが、残念ながら開発するのは一流選手の競技用シューズではない。商店街の靴屋やショッピングセンターで普通に売られている、ごく普通の運動靴だ。 一般向けシューズの開発スパンは短い。コストは出来るだけ抑え、しかも売れなければならない。当然、理想のシューズなど作れるはずがない。企業においては売れるシューズがいいシューズなのだ。
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