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桜井は、急いで真千の元に駆け寄ると、
「大丈夫か?怪我はないか?」と声を掛けた。
しかし、真千はスマホの画面から全く目を離そうとせず、
ペースを落とすことなく、歩き続ける。
「おい。待てって…。」
桜井は強引にでも呼び止めようと、真千の肩に手を掛けた瞬間、
その手は真千の体をすり抜けて、大きく空を切った。
そこで、桜井はようやく気付く。
過去の世界では、自分の姿は他人に見えない。
それどころか、声も聞こえなければ、物に触れることもできない。
まるで、幽体離脱のような状態となっているのだ、と。
それは同時に、桜井を絶望の底へと叩き落とした。
一体どうすれば、この状態で娘を救い出せると言うのだ。
恐るべき惨劇が、目の前に差し迫った状況で、
桜井に出来ることは、もはや何ひとつ残されていなかった。
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