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その日から桜井は、事件の起きた5月の水曜日、午後3時に、
何度も何度も時間遡行を繰り返した。
そして、同じく時間を遡ってやって来ているであろう、
過去の自分、未来の自分、すべての自分が、
ぴったり重なり合う姿を想像して、同じ場所に立ち続けた。
何も、ただ漫然とそこに立っていたわけではない。
シルエットがきれいに重なった方が良いだろうと考え、
毎回、立つ位置が変わらないよう、立ち位置の目印を決めて、
体の向きがきちんと揃うよう、角度も細かく調整した。
また、姿だけではなく、音を重ねてみることも思い付き、
きっちり時間を計りながら、カウントダウンを行い、
同じタイミングで雄叫びを上げるようにもした。
そうして、重なり合った透明なセロファンの無音の咆哮は、
少しずつ、しかし確実に、その厚みを増していった。
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