2話 店長さんと黒森さん

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2話 店長さんと黒森さん

 次の日、日の高くなる前、開店前の涼しい時間だ。オアブスーパー山田店の駐車場には、次から次へと配送トラックがやって来る。  店長や店員はトラックを誘導したり、商品を店内に運び込んでは陳列していた。  ニコヤカ堂の冷凍トラックも到着した。若い女性の運転手、黒森も駐車場にトラックを止めた。運転席から飛び降りる。 「おはようございます! いつもお世話になってます、ニコヤカ堂です」 「あ、黒森さん、おはようございます」  黒森はトラックの荷台にある扉を開く。寒い荷台に乗り込み、アイスクリームが詰まった段ボール箱を抱える。外に出れば肌が熱く感じる。  体にかなり悪いな、とは思う。しかし、「新入社員は一年間、配送をしてもらいます」。採用試験で面接のときから、言われていた。ぐちになるので唇を結ぶ。  台車の載せるのは店長も手伝う。 「大変ですね、ニコヤカ堂はお金持ちの会社です。良い所に、勤めましたね。前、営業さんに聞いたけど、新人さんは、最初の2年間、全員が配送担当だそうですね」 「はい、そうです」  ニコヤカ堂にとって、オアブスーパーは重要な顧客なので否定せず、笑顔で応じた。本音を漏らせば、1年だ。夏場は忙しく、短期の配送専用のバイトもいる。  届けた商品の検品になり、店長は納品書に目を通す。 「100個しか届いてない。チョコとバニラは10個だけ? 残りは全部、金目鯛(きんめだい)ポタージュ(きん)(あじ)アイスクリーム?」  黒森は押し黙っていた。ニコヤカ堂で、一番人気のないアイスが、『金目鯛ポタージュ金と味』だ。営業の先輩から、「これ持ってって」と指示された。店長さん優しいから、おいしくなくも怒らない、とも言われた。  店長の出方を待つ。 「アイスを200個運んでくれるって営業さん、言ったじゃないですか?」 「え?」  店長は数少ないチョコ味とバニラ味を並べておいて、と店員に渡していた。 「困るなぁー、アイス200個納品するって、営業さん言ってたんです」 「申し訳ございません」  高校出たての新人。営業の先輩にわたしから言いづらい。直接言って欲しい、心にえいっと念じる。  店長は渋面をしていたが、新人である黒森さんの立場を考えて、苦笑する。 「営業さんに後で電話します。お気をつけて」 「申し訳ございませんでした」  ぺこぺこお辞儀してから、金目鯛ポタージュ金と味アイスクリームの見本まで、複数個渡す。  黒森はトラックの運転席に乗り込み、次の配送先に向う。  罪悪感を感じて。
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