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毎年君は夏になるとこの京都へやってきた。
そしてあの日・・・僕の住むこの鬼ケ城にも。
参道から離れた山間を流れる由良川に僕は足を浸して冬眠前で動きがのろくなった沢蟹たちをからかって遊んでいた。
そんな時だった。
どこからか泣き声が聞こえたのは・・・・。
また人間が山に迷ったんだろう。別に僕には関係ないや・・・・そう思ったはずなのに、気がついたら僕は川から上がって泣き声を頼りに君を見つけていた。
僕を見て君はすぐに泣き止んだよね。
「はぐれたの?」
僕がそう聞いたら君は黙ってうなずいた。
「ねぇ、僕と遊ばない?」
「・・・・・遊ぶって・・・なにして?」
「そうだなぁ・・・どんぐり投げはどう?まだたくさん落ちてるし!」
「どんぐり?どんぐりがあるの?」
僕は辺りを見渡して傘の被った大きなドングリを拾って君に差し出した。その時君が伸ばした手の白さを見て僕ははっとしたんだ。恐る恐る僕の手からドングリを受け取る瞬間の君の手の柔らかさに僕は体中に電気が走ったみたいになったんだ。
それから僕はそっと君の手を取って、山の中をあちこち歩いた。
ドングリを広いながら・・・。
歌を歌いながら・・・。
追いかけっこしながら・・・。
木の実を食べながら・・・・。
最初はね、君をもっともっと迷わせてしまおうと思ったんだ。それで僕が君と遊ぶのに飽きたら帰って兄さまたちに君をあげたら、兄さまたちは喜んで君を骨まで残さずたべるだろう。だから僕が飽きるまで君と遊べたらそれでいいと思ってた。それなのに、君が笑うたびに僕はいつまでだって君を見ていたくなった。
「ねぇ・・・あなたはこの山の子?」
「そうだよ」
「おうちはどこ?」
僕は「あっち」と指をさした。君は僕のさした方をじっと見てよくわからないという顔をしていたね。
「君は?」
「私は・・・京都のお祖母ちゃんちに来ているの。それで今日は家族でこの山へ・・・」
そこまで言って君は急に不安そうな顔をしたよね。
「そうだ・・・私・・・戻らなきゃ・・・きっと母さんたちも心配しているわ」
「どうして?」
「だってそうでしょ?急に私がいなくなったから、みんな心配してさがしているわ。お願い帰る道を教えて」
さっきまでドングリを手に笑っていたのに、急にまた君が泣き出しそうな顔をするから僕はひどくいらついたんだ。
「やだよ。ここにいてずっと僕と遊べばいいじゃないか」
「そんなのだめよ。あなただってお家に帰らないと家族の人が心配するわ」
「別に大丈夫だよ。兄さまたちは僕がどこにいるかすぐにわかるから。あぁ、そうだ。じゃぁ君も僕の家にきたらいいよ」
そう言って君の柔らかな手を取ったけど、その手は僕の手をするりとすり抜けた。君は俯いたまま、その場から動こうとしなかったんだ。
じっと僕を見る大きな目に少しずつ涙が溜まっていくのがわかった。僕は大きなため息をひとつついて君に一歩歩み寄った。
「そんなに帰りたいの?」
「・・・・うん・・・」
「じゃぁさ・・・・帰り道教えてあげる代わりに僕のお嫁さんになってよ。約束するなら帰り道教えてあげる」
「本当?」
「うん」
「じゃぁわかった!」
「よし、約束だ」
そう言って僕は君の白く柔らかな額にやさしくキスをした。
「これは誓いだよ。約束をして僕が君にキスをした。だから誓いは成立だよ。もし君が約束を違えたら・・・・」
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