第一章『こくご の じかん』1-2

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洗濯機に頭を突っ込みながら鼻からワサビ醤油を流し込まれるような悪夢を見た気がする。 でも、目が覚めた瞬間に忘れてしまった。 他人の夢の話ほど、つまらないものはないと思う。 朝食にカップのスープパスタを胃に流し込んで、バックパックに適当に荷物を詰めた。 どれくらいの滞在になるかは判らないが、3日分の着替えがあれば上等というものだろう。 家を出ようとしたら、玄関でパジャマ姿の妹が立っていた。 「やーはー。おにいちゃん、おはよ」 中空に妖精でも舞っているのだろうか、妹の視線はあらぬ方向にあって、俺のことなど、まるで見ていない。 まあ、いつものことである。 「おう、瑠璃(るり)。おはよう。お兄ちゃんさ、ちょっとの間、家にいないから。ちゃんと戸締まり……」 「宣言していい?」 文脈をぶった斬られた。 まあ、これも、いつものこと。 「うん? なに?」 「おにいちゃんは、もうひとりのおにいちゃんと会うよ」 「…………」 やっべえ、リアクションに困る。 妹の瑠璃は中学二年生で、いろいろと精神的に(こじ)らせるお年頃ではあるのだが、自我が芽生えた頃から電波キャラなので、俺はもうなんとも思わない。 「そうか、もうひとりの俺か……うん、会えるなら、会ってみたいな。素敵な宣言をありが……」 「報告していい?」 文脈ぶった斬り第二弾。 もう好きに言わせておこう。 「おにいちゃんの背中に、悪魔がいるよ。それもいっしょに連れていくの?」 「…………」 もうね、ゾゾゾーですよ。 背中ぞくぞくですよ。 いつからこいつはエクソシストになったんだ? 「あー、うん、報告ありがとう。おっけ。塩、塩ね? コンビニで塩買って身体に振りかけておくよ。そうしたら悪魔なんてたちまち……」 「告白していい?」 駄目だ、もう付き合ってられない。 俺は妹を押し退けて外へ出た。 すると背後で叫ばれた。 「おにいちゃん、好きー!」 うん、知ってるよ。俺も瑠璃がけっこう好きだよ。   *  *  *
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