1.都会からの転校生

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1.都会からの転校生

 ミーン、ミーン、ミーン……。  梅雨もすっかり明け、今年もいよいよ本格的な夏を迎えた。山のふもとに広がっている田んぼの緑も、眩しいほど輝きを増してきている。  今年の春に高校を卒業し、電車でふた駅の小さな会社に就職したあたしは、休日の今日、朝からまったりとした一日を過ごしていた。キッチンの冷凍庫からアイスを1本取り出すと、それを口に放り込んで自分の部屋へと向かう。そんな昼下がりだった。 「あ、里穂からラインだ」  木々に留まっている蝉たちの、耳をつんざくような鳴き声が窓の外から聞こえる中、あたしはクーラーの効いた自分の部屋のベッドに寝っ転がって、スマホに届いたラインを開いていた。 『雫、久しぶり!  夏休みに入ったら、そっちに遊びに行くよ  待っててね!』    メッセージを読むなり、あたしは起き上がり小法師(こぼし)のように上半身を起こした。 「里穂が遊びにくる!」  そのラインの内容に、一気に心が躍る。  里穂は去年、この町に住んでいたクラスメイトの女の子。5月にあたしたちのクラスに転入してきて、夏休みが終わる前に元住んでいた東京へと転校してしまった。この町にはたった3か月半しかいなかった。  その後はたまにラインでやり取りしていて、今年の春には「無事大学に合格したよ!」と報告をもらっていた。そしてこの夏、大学の夏休みに入ったらここへ遊びに来るという。 「久しぶりだなぁ、里穂。早く会いたいなぁ」 あたしは窓の外の真っ青な空を見て思い出していた。彼女と過ごした、去年の日々を――。
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