1.都会からの転校生

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 しばらくしてチャイムが鳴り、ヨッツが教室に入ってきた。 「さー、席に着けーっ。ホームルームを始めるぞ」  その声を合図に、クラスのみんなが自分の席へと戻っていく。あたしも席に戻りながら、教室の前方に目をやった。  奈美の言った通り、ひとりの女子生徒がヨッツの後ろについて教室に入ってきてる。転校生が来るって情報は本当だったようだ。その転校生の姿に、クラス中のみんなが騒然とした。 「うわっ、美人っ」 「可愛いっ」  教室のあちこちで、そんな感想が漏れる。確かに誰もがそう口走ってしまう位、彼女は「超」が付くほどの美人だった。色が白くて顔立ちも整っている。肩下20センチほどある長いストレートの髪も、手入れが行き届いていて艶々だ。こんな田舎には不似合いだと感じるほど、都会的な美人と言っていい。  だけど、その顔に笑顔はなかった。無表情だ。いや、どちらかというと少し不機嫌そうに見える。色が白いせいもあり、その不機嫌そうな表情が余計に際立って見えた。緊張しているのかどうかはわからないけど、彼女はじっと斜め下を見つめ、このクラスの誰とも目を合わせようとしなかった。 「東京から転校してきた杉本里穂さんだ。みんな仲良くしてやってくれ」 「へー、東京だって。都会じゃん!」  『東京』という言葉に、みんなが反応する。だって、田舎暮らしのあたしたちにとっては『東京』イコール『都会』だから。この田んぼだらけの風景とは違い、きっとビルが沢山立ち並んでいてお洒落なんだろうな、と憧れてしまう。 「えーと、席は……上野の隣が空いてるな」 「え? 俺?」  急に名前を挙げられた蓮が慌て出す。蓮の席は教室の一番後ろだ。その隣に空きスペースがある。使っていない机と椅子をそこに移動させ、彼女がそこに座ることになった。圭太くんを始め、教室中の男子がうらやましそうに蓮を見つめる。 「よ、よろしく」  頭を掻きながら蓮が彼女に挨拶すると、彼女はやっぱり蓮とは目を合わせずに、「よろしく」と聞こえるか聞こえないか位の小さな声で答えた。
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