1.都会からの転校生

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 そんな中、 「杉本さんは?」  と転校生の名前を挙げる男子がいた。「ダントツ、キレイだしね」と、他の数人の男子も頷く。でも、それに賛同する女子はいなかった。  確かに容姿だけで言うなら、彼女がダントツかもしれない。だけど彼女を選びたいと思う女子は、きっといない。というか、彼女にこの地域の顔でもある『蛍姫』になんてなって欲しくないはずだ。少なくともあたしはそう思っていた。 「他にもいるよね、可愛い子」 「1組の西尾さんとかいいんじゃない?」 「2組の中田さんも可愛いよね」  他の女子も、杉本さん票を阻止しようとするかのように別の子の名前を挙げ始める。やはりあたしと気持ちは一緒のようだ。  杉本さんの方をチラッと見ると、彼女は「我関せず」といった感じで教科書に目を落としている。都会育ちの彼女にとってこんなローカルな話題、興味がないみたいだった。  その日の帰り、部活に向かった奈美と別れひとり家路についていると、背後から声をかけられた。 「おい、雫っ」  振り返るまでもなく、声の主はわかっていた。蓮だ。家が同じ方向なのもあって、こうやって彼と一緒に帰ることも珍しくない。蓮はあたしの横に並ぶと、あたしに合わせて歩くスピードを落とした。  どこからともなく蛙の鳴き声が聞こえてくる。午前中は天気が良かったのに、今は空いっぱいに雲が広がっていた。少し土ぼこりっぽい匂いもしてる。早ければ、夕方から雨が降り出すかもしれない。 「数学のノート、サンキューな。助かった」 「ん……」  小学校の頃はよくふざけ合った仲だけど、さすがに高校3年になった今では、落ち着いて会話出来るほどにお互い成長していた。あたしはともかく、蓮を見てると「あんなに悪ガキだったのに」って常々思う。身長もいつの間にか追い越されて、あたしの目線は蓮の肩の位置にある。それでも幼馴染みは幼馴染みだ。それ以上でも、以下でもない。
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