1.都会からの転校生

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 蓮は本当に困っている様子だった。それはそうだと思う。彼は少しも悪くない。席が彼女と隣同士、ただそれだけの理由でヨッツから頼まれたのだから。それは同情に値する。それに腐れ縁とはいえ、蓮とは幼馴染みだ。あたしだってできることなら協力してあげたい。  だけど、あたしはどうしても首を縦に振れなかった。彼女の今日の態度を見る限り、とてもじゃないけど無理だ。プライドが高そうな彼女の心を開かせるなんて、あたしには無理だ。 「な? 頼むっ、雫っ」 「ん――――っ」  今朝の姿を再現するように、蓮が両手を合わせてお願いしてくる。対するあたしは苦渋の決断を迫られて、顔をしかめていた。 「てかさ、ヨッツにも言ってあるんだ。『水森さんと一緒に頑張ってみます』ってさ」 「はぁっ? 何勝手に人の名前出してんのよっ」  蓮は、あたしが昔から断れない性格だっていうのを知っている。知っててこんなお願いしてくるんだから余計にタチが悪い。しかも何の断りもなしに、ちゃっかりヨッツと約束なんかして!  あたしは「ああああっ」と頭の中で自分の頭をガシガシ掻きながら、大きくひとつ溜め息をついた。 「もう、わかったよっ。じゃあ、一応あたしも気にするようにはするけど、もし彼女があたしを拒んだりしたら、即終了だからね。それでもいい?」 「さっすが、雫! ありがとなっ」  根負けして半ば投げやりに返事をすると、蓮はそんなのお構いなしといった感じで満面の笑みを浮かべて喜んでいる。 「ウソでしょ……」  余計なことを引き受けてしまった。頭の中が、体全体が真っ白になった気分だった。蓮と幼馴染みであるばかりに、背負わなくていい任務を背負うことになるなんて。あたしは自分が蓮と幼馴染みであることを、大きく大きく後悔した。  喜ぶ蓮とは反対に身も心も灰と化したあたしは、歩きながら湿度を帯びた生ぬるい風に包まれていた。
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