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2.深まる嫌悪感
次の日の朝、あたしは重たい気分のまま教室の中に足を踏み入れた。何で蓮とあんな約束しちゃったんだろうって、昨日からずっと後悔しっぱなしだ。
教室内はいつもと変わらず騒がしい。クラスメイトたちが、机や窓際でそれぞれお喋りしたりふざけあったり黒板に落書きして遊んでる。
そんな中、ひとり席についてやっぱり不機嫌そうに雑誌を見ている杉本さんの姿があった。何者も寄せ付けないようにバリアを張っているのが、彼女の雰囲気から見て取れる。敵はかなり手強そうだ。
蓮はあたしに気づくなり、ジェスチャーで何か訴えかけてきた。人差し指で杉本さんを指差しながら、口をパクパク動かしている。きっと「彼女に話しかけろ」ってことだろう。
「早速ですか」
あたしは返事代わりに蓮をギロリと睨むと、渋々杉本さんの机まで近づいていった。そしてすうっと息を軽く吸って、彼女に声をかけてみる。
「おはよ……杉本さん」
すると、彼女は顔を上げてあたしの顔をチラッと見ると、また雑誌に視線を戻し、
「おはよ」
と呟くように小さな声で返事した。どうやら、喋りたくなくても挨拶だけは返してくれるようだ。たったそれだけなのに、取りあえずホッとしてしまう自分がいる。挨拶ひとつでこんなに緊張するなんて、生まれて初めてかもしれない。
でもこれ以上話しかける勇気は、今のあたしにはなかった。足早にその場を離れ、自分の席に向かう。すると、すぐに奈美があたしの元にやってきた。
「雫えらいね。あの彼女に挨拶するなんて」
「うーん、まぁ、一応クラスメイトだしね」
そう笑いつつ、良心が少しだけ痛む。なぜなら自ら進んでやったことじゃないから。蓮に言われて仕方なくやったことだからだ。何だか自分が善人面しているようで、あまり気分がいいもんじゃなかった。
彼女の方にまたチラッと目をやると、相変わらずつまらなそうに頬杖ついて雑誌のページをめくっている。挨拶含め、彼女に声を掛ける子の姿はない。話しかけても、昨日みたいに無視される可能性が高いからかもしれない。
杉本さんは、どうしてそんなに周りを寄せ付けないんだろうか。きっと彼女だって、ひとりじゃつまんないって思ってるだろうに……。
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