第2話 先生、または桜井蒼汰

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「あっ、ん……ん、やっ……」 「なあ、定期的に会ってくれるなら、もう少し金渡せるけど」 「だ、め……」 「毎週金曜、この時間にさ」 「駄目だってば……ぁっ、あ……」  俺は何度もかぶりを振ってそれを拒否した。怖くて仕方がないのに、その怖さから逃れるために危うく頷いてしまいそうになる。こんなの一度きりでも駄目なのに。定期的に関係を続けてしまったら、安定している生活が崩れてしまう。  孝行息子の翼が。頼れるつばさが。  崩れてしまう──。 「なあ、マジに考えてくれよ。翼くんが嫌がることはしないからさ」 「そんな、こと……言われても。──え?」  この男は今、何て言った。 「今何て言った?」 「嫌がることはしない」 「その前」 「マジに考えてくれ」 「その後」 「翼くん」 「っ……!」  俺は咄嗟に体を引き、目の前で笑う「男」の顔を改めて凝視した。  知らない。こんな男、一度だって会ったことはない。 「ど、どうして俺を……」 「あ、やっぱり気付いてなかったのか。俺は始めから気付いてたけど」  こんな男、……知ってる。会ったことがある。 たった一度だけ。それも、今日。 「……もしかして」  俺は震える声で問いかけた。既に下半身は萎えている。 「もしかして、武虎の英会話教室の……」 「桜井蒼汰だ。よろしく」  ──やっぱり! 「よ、よろしくじゃないっ。何なんだよこれ、俺を騙したのか!」 「違うって、俺も会うまで気付かなかったんだ、完全な偶然だよ」 「途中から知ってて、ここまで……」 「始めはシラを切ろうと思ったけど、何か悪い気がしてな。変装用の眼鏡してたから分かんなかったんだろ。高かったんだ、これ」 動揺する俺を満足げに眺めているのは、紛れもなく夕方に会った英会話の講師だ。どうして今まで気付かなかったのだろう。暗かったからか、眼鏡をかけていたからか、顔なんて碌に見ていなかったからか。 「正体はバレたけど。金払うんだし、最後まで付き合えよ」 「か、金なんか要らなっ……あ、あぁっ」
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