第3話 日、月、暇なし

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「これは泥棒とか悪いことをした人が着る服だぞ。本当にこれでいいのか?」 「だって、ハロウィンは泥棒とか悪いことする日だろ?」 「全然違う。死んだ人をお迎えする日だ」 「じゃあなんでお菓子もらうの? なんでイタズラもするの」 「な、なんでだろ?」  答えが分からず困っていると、武虎が「あっ」と小さく声をあげた。横からやって来た別の子供が、残り一つだった囚人の衣装を持って母親の元へ行ってしまったからだ。 「……武虎、こっちにすれば? これの方がかっこいいじゃん」 囚人を別の子に取られて唇を噛んでいる武虎に、俺はしどろもどろになりながらオオカミ男の衣装を見せた。 「オオカミ男って、満月を見て変身するんだぞ。すごい強いんだ、超かっこいい。耳と尻尾も付いてるし、爪が生えた手袋もある。みんなびっくりするぞ」  無言で頷いた武虎が、衣装の袋を持って俺の手を握る。どうしたものかと思ったその時、視界の隅に、白い布の束のようなものがちらりと映った。  慌ててそれを手に取り、俯いた武虎の顔の前に差し出す。 「ミイラあった! 武虎、見ろ!」 「え……」  布の束ではない。クラシックミイラ・キッズ用──確かに袋にはそう書いてある。 背中がファスナー式になっているツナギタイプで、全身を覆う包帯もしっかりと縫い付けてあるから解けたり破れる心配もない。ところどころで包帯が垂れ下がり、シンプルながらもかなりそれっぽい造りになっていた。 「ミイラ!」  オオカミ男を元の場所に戻し、武虎がミイラの袋を抱きしめる。よほど興奮しているのか、頬が真っ赤になっていた。 「まさか本当にあるなんてな。武虎、来て良かっただろ」 「うん!」  機嫌の良くなった武虎を更に喜ばせたくて、俺はさっき武虎に戻させたお菓子入りのカボチャを再びその手に持たせてやった。 「夕飯の後で食べろよ。それから、算数の勉強も頑張るんだぞ」 「分かった! つばさ、ありがとう!」  単純というか、聞き分けの良い奴だ。このまま成長してくれれば、もう俺は何も言うことはない。 「じゃあ、夕飯の買い物して帰ろう」 「夕飯なに? ハンバーグ?」 「魚だ」 「魚か……」
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