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「こんにちは、お兄さん」
「蒼汰……先生は、今日休みなんですか?」
「ああ。ハロウィンで配るお菓子売ってるかなって思って来たんだけど、やっぱ大型のスーパーまで行かないと無理だな。もうこんな時間だし、横着するんじゃなかった」
「電車で三駅行ったところにディスカウントストアがあるんだけど、お菓子とかいろんなの売ってたぞ。俺達も今そこ行って来たんだ」
「そうか、じゃあ次の休みの日こそ行かねえと。ありがと、翼くん」
ふと下に目を向けると、俺と蒼汰の間で武虎が怪訝な顔をしていた。
「つばさと蒼汰先生、何で急にそんな仲良しになったの」
その言葉にギクリとしたが、すかさず蒼汰が身を屈めて武虎の頭を撫で、言った。
「武虎と先生は超仲良しだろ。それなら武虎のお兄ちゃんとも、仲良くしなきゃ」
そっか、とよく分かっていない様子で武虎が笑う。蒼汰の笑みが一瞬邪悪なものに感じられたのは気のせいか。
俺は自転車と武虎の背中を押し、蒼汰に向かって軽く頭を下げた。
「それじゃ、また」
「先生またな!」
手を振る蒼汰に背を向けて、夕暮れの中、俺達はゆっくりと歩き出した。上手くやり過ごせたと思ったが、ハンドルを握る手は見た目にも分かるほど震えている。
「家帰ったら、おれちょっとだけミイラ着てみようかな?」
「それなら、トイレでこっそり着替えて父さんを脅かしてやろうよ」
「それいい! 父さんびっくりして転ぶかもな!」
武虎の笑顔に、思わず俺の頬も綻ぶ。
どうってことない。蒼汰とは今みたいに接すればいいんだ。
この笑顔が崩れることに比べたら、俺の不安や焦りなんてどうってことない。
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