第2話 先生、または桜井蒼汰

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「うん。簡単なアルバイト。君くらいの齢の子なら、皆やってるだろ」 「何をしろって言うんですか」 「じっとしててくれればいいよ。時間にして三十分もかからないんじゃねえかな」  それって、もしかして売春じみたことをしろと言っているのだろうか。 「い、嫌です」 「じっとしてるだけなのに?」 「だってそんな、援助交際みたいな真似……」 「二万払うけど」  一瞬、金額の大きさに思考が停止した。男はその隙を逃さず、更に距離を詰めて俺の目を覗き込んでくる。 「少しの間じっとしてるだけで二万円のバイト代。悪くねえだろ」  確かに、それが本当だとしたら悪くない。触られるのは嫌だが、触らせられたり痛い思いをするよりはずっとましだ。三十分間じっと耐えれば二万円。時給千円のアルバイトなら二十時間分の給料だ。 「………」  二万円で、武虎の自転車が買えるだろうか。  ぼんやりと思い、打ち消して、だけどまた考える。そんな汚れた金でとは思うが、金は金だし関係ないとも思う。俺は早急に金が必要で、武虎もなるべく早く自転車が必要で、そうすれば武虎はもう一人だけ走らずに済むし、友達と仲良く遊べるし…… 「おい、大丈夫か? そんな考え込むなら止めとくからいいよ」 「本当にじっとしてるだけでいいんだな」  覚悟を決めれば、断られると思ったのか逆に男の方が怯んだようだった。 「ああ、……」 「本当だな。それ以上のことしたら、警察に行くからな」 「疑り深い奴」 「でも、約束してもらわなきゃ困る」  懇願するように言うと、男が噴き出して俺の肩を再度抱き寄せてきた。 「分かったよ、約束する」  囁き声と共に、男の唇が近付いてくる。冷たくなった頬に息が触れるほどの距離だ。縮こまって強く目を瞑ると、男の唇が俺の頬へ押し付けられた。 「………」  初めて男にキスをされた。もちろん、女からされたこともないけれど。  ただ頬にキスを受けただけで震えてしまうなんて、少し恥ずかしかった。経験がないのを白状しているようなもので、男がその弱みにつけこんできたらと思うと怖かった。
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