第2話 先生、または桜井蒼汰

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「ガチガチだな、力抜けって」 「別に、……んっ」  手がシャツの中に入ってきて、熱くなった肌に直接触れられる。男の手の動きはひどく緩慢としていて、卑猥だった。 「っ、ん……、ん」 「いい反応してる」 「……や」 「君のルックスで未経験なら二万でも安いと思うぜ。あと一万上乗せしたら、咥えてくれたりして」 「や、嫌に決まってるだろ。始めの約束と違うっ……」  ここでそんなものを受け入れてしまったら、更に要求されるに決まっている。そうしていつの間にか取り返しのつかないことになるのだ。やはりこの男は、俺が世間知らずで流されやすい奴だと始めから分かっていたのかもしれない。 「真面目なんだな」  言いながら、男が俺の腕を軽く引っ張った。自分の膝に対面になるよう俺を座らせ、堂々とシャツを捲り上げてくる。 「ちょ、っ……」 「触るだけだ。ルール違反じゃねえだろ」  触れた指が冷たいのは、俺の体が熱くなっているからだろうか。 「ふぅ、……う」  なるべく声を殺して身を低くさせ、男の肩に頭を預ける。そうしていると男が俺の股間に触れてきて、あっという間にファスナーを下ろされてしまった。 「も、やめろ……! やっ、ぁ……!」  緩くなったジーンズの前から男の手が入ってくる。下着越しに擦られ、指先で捏ねるように揉まれ、俺は緊張に硬直した体を捩ることもできず、ひたすらその刺激に耐えようとした。 「変な触り方、するなって……!」 「とか言って反応してるし。気持ち良くなって金が貰えるなら最高のバイトだろ」 「違っ、……」  続けて、耳元に囁かれる。手は既に下着の中だ。 「二万円のバイト代で何買うんだ? 若いから、やっぱ服かな。それともゲームか。友達と遊ぶためか?」 「ひぁっ、あ、やぁっ……」  先端からとろりと溢れた体液を、男が指ですくって更に擦りつけてくる。閉じた瞼の端からも似たような液体が溢れ、そっちは自分の手で拭った。 「別に何でもいいけどよ。好きなことに使え」 「うあ、あっ……触るなってば、そんな……」  剥き出しになった俺のそれを擦りながら、男が俺の唇を舐め上げる。夜の空気が冷たければ冷たいほどに舌と吐息が熱く感じ、俺はその冷たさと熱さに堪らず顔を背けた。  声が、止まらない。
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