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第3話 日、月、暇なし
日曜日、午後三時。
サッカークラブの練習から帰った武虎を風呂に入れてから、俺達は電車に乗って隣町のディスカウントストアに出掛けた。父さんが休みだから車を出してもらおうかと思ったが、テレビのゴルフ中継があるとかで頼むことができなかった。代わりに夕飯の材料を買う金と、その他に余分に小遣いをもらっている。
「アイス食べよう、つばさ。棒のじゃなくて、コーンのやつ」
「いいけど、寒くないか? 武虎、電車の中では足バタバタするな」
「サッカーしてたから暑い。おれ今日がんばったから、アイスとかのご褒美が必要なんだよ」
子供のサッカー人気が低下しているのか、それとも単に少子化のなせる業なのか。とにかく武虎が入っているサッカークラブは子供が少なく、毎週必ず試合ができるといった状況ではないらしい。ポジションも特にこれと決まっている訳ではなく、キーパーも交代でやっている。
今日の武虎は自分で言っていた通りキーパーを任されていたらしく、誇らしげに鼻血を垂らしながら帰って来たのだった。
「サッカー楽しいか?」
「楽しいよ」
「英語の教室とどっちが楽しい?」
「どっちも好き。コーチも面白いし、蒼汰先生もかっこいい」
蒼汰の名前が出てきて一瞬言葉に詰まり、何とかそれを咳で誤魔化す。
「………」
例の件はお互い秘密であることは約束したものの、俺は次の金曜、どんな顔をして武虎の迎えに行けば良いのだろう。今更何事もなかったかのように、「先生と保護者」として蒼汰と接することができるだろうか。
「つばさ? 駅、着いたって」
「あ、ああ。降りるぞ、寒いからパーカー着て」
「切符ちょうだい。無くしてない?」
「無くすもんか」
改札前で預かっていた切符を武虎に渡し、はぐれないよう手を繋いで駅を出る。夕刻前でも流石に日曜日なだけあって、周りはカップルや家族連れが多い。
「あ! 見て、すごい!」
ディスカウントストアには、予想通り多くのハロウィングッズが並んでいた。沢山のカボチャや幽霊を見た武虎の目がきらきらと輝き出す。
「つばさ、おれ、コレとコレ! あとコレも」
早速お菓子を見つけた武虎が、両手いっぱいに飴やグミを持って俺を見上げる。それらは確かに俺にとっても魅力的だったが、今日はお菓子でなく衣装を買いにきたのだ。俺は何とか武虎にそれを戻させ、別の売場に移動した。
「見ろ武虎。ドラキュラと悪魔、海賊の服もあるぞ。意外に残ってるもんなんだな」
「この中だったら、おれコレがいい」
武虎が指した衣装は、縞模様のツナギと帽子のセットだった。
「……囚人……」
「シマシマ好き。コレにしよう、つばさ」
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