第3話 日、月、暇なし

1/11
665人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ

第3話 日、月、暇なし

 日曜日、午後三時。 サッカークラブの練習から帰った武虎を風呂に入れてから、俺達は電車に乗って隣町のディスカウントストアに出掛けた。父さんが休みだから車を出してもらおうかと思ったが、テレビのゴルフ中継があるとかで頼むことができなかった。代わりに夕飯の材料を買う金と、その他に余分に小遣いをもらっている。 「アイス食べよう、つばさ。棒のじゃなくて、コーンのやつ」 「いいけど、寒くないか? 武虎、電車の中では足バタバタするな」 「サッカーしてたから暑い。おれ今日がんばったから、アイスとかのご褒美が必要なんだよ」  子供のサッカー人気が低下しているのか、それとも単に少子化のなせる業なのか。とにかく武虎が入っているサッカークラブは子供が少なく、毎週必ず試合ができるといった状況ではないらしい。ポジションも特にこれと決まっている訳ではなく、キーパーも交代でやっている。  今日の武虎は自分で言っていた通りキーパーを任されていたらしく、誇らしげに鼻血を垂らしながら帰って来たのだった。 「サッカー楽しいか?」 「楽しいよ」 「英語の教室とどっちが楽しい?」 「どっちも好き。コーチも面白いし、蒼汰先生もかっこいい」  蒼汰の名前が出てきて一瞬言葉に詰まり、何とかそれを咳で誤魔化す。 「………」  例の件はお互い秘密であることは約束したものの、俺は次の金曜、どんな顔をして武虎の迎えに行けば良いのだろう。今更何事もなかったかのように、「先生と保護者」として蒼汰と接することができるだろうか。 「つばさ? 駅、着いたって」 「あ、ああ。降りるぞ、寒いからパーカー着て」 「切符ちょうだい。無くしてない?」 「無くすもんか」  改札前で預かっていた切符を武虎に渡し、はぐれないよう手を繋いで駅を出る。夕刻前でも流石に日曜日なだけあって、周りはカップルや家族連れが多い。 「あ! 見て、すごい!」  ディスカウントストアには、予想通り多くのハロウィングッズが並んでいた。沢山のカボチャや幽霊を見た武虎の目がきらきらと輝き出す。 「つばさ、おれ、コレとコレ! あとコレも」  早速お菓子を見つけた武虎が、両手いっぱいに飴やグミを持って俺を見上げる。それらは確かに俺にとっても魅力的だったが、今日はお菓子でなく衣装を買いにきたのだ。俺は何とか武虎にそれを戻させ、別の売場に移動した。 「見ろ武虎。ドラキュラと悪魔、海賊の服もあるぞ。意外に残ってるもんなんだな」 「この中だったら、おれコレがいい」  武虎が指した衣装は、縞模様のツナギと帽子のセットだった。 「……囚人……」 「シマシマ好き。コレにしよう、つばさ」
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!