第一章 記憶の檻

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 降りしきる雨の音を聞きながら、アマリヤさんの墓標に身を預けている内に、ぼんやりと夜が明けてからのことが頭に浮かんだ。明日からしばらく、この街を離れなくてはならない。私が修道院での勤めとして研究している天文学の、研究成果を発表する学会へと出席するために他の街へ行かなくてはならないのだ。  アマリヤさんが眠るこの街から離れた場所に行くのはもう慣れたけれども、それでもその度に胸が痛む。冷たい雨と熱い涙が頬を伝う。かけている眼鏡が雨で濡れて景色が歪んでいるので、今更涙で視界が滲んでもなにも変わらない。このままここで泣き崩れてしまったら、ほんとうに修道院まで帰り着けなくなるような心地になってしまったので、私は後ろ髪を引かれる思いで立ち上がり、墓標に背を向けた。
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