6人が本棚に入れています
本棚に追加
第二章 残された筆跡
雨が降っていた夜の翌日、やって来た朝は夜の雨が嘘のように、どこまでも晴れ渡っていた。
何事も無かったかのように、いつもと同じように朝の礼拝を済ませ、朝食を食べる。朝食のあとは、かつてはアマリヤさんと一緒に天文の研究資料を書いたりまとめたりしていた部屋で荷物をまとめていた。
この部屋の天井は青く塗られ、円や半円形のカラクリがいくつも仕掛けられている。星の動きを再現し、見るためのプラネタリウムになっているのだ。
プラネタリウムを設置したのは、私ではなくアマリヤさんだ。私がこの修道院に入る少し前に、アマリヤさんが試行錯誤を繰り返して設置したのだという。
初めてこれを見たとき、私は一体何なのかがわからなかった。わからなかったけれども、ただこのプラネタリウムの存在感と神秘に圧倒された。
そこからだった。私が天文学を学び、研究しはじめたのは。私が研究に携わり始めてから、星に関する様々なことを記したノートが棚や机の上に何冊も積み上げられている。この中から、今回出席する学会で必要な物を選んで外出用の鞄に詰めていく。ふと、途中でノートを開くと、ノートの端々に小さく研究内容ではないことばが書かれている。そういった小さなことばたちはすべて、アマリヤさんに語りかける物だった。
ノートから視線を上げて周りを見渡す。あの頃と変わっているところなど、何もないようだった。
思わずぼんやりとしてしまったけれども、そろそろ迎えが来る時間だ。少しだけ荷物を詰める手を早めた。
最初のコメントを投稿しよう!