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 まず最初に私がどういう人間だったかお話しするべきでしょうな。何故かと申しますと、元来、至極真っ当な、極めてありふれた一般人であったと、記憶に留めて欲しいからに他なりませぬ。決して犯罪者や、巷で噂される精神異常などありゃしねぇ。アナタ様と同じく退屈な日々を送り、何か目新しい物は無いだろうかと、日夜、フクロウのように眼を見開いて探していたんでさぁ。  よろしいですかな。もう少しばかり寄ってはいかがです。いやなに、私の話が聞き取れているのか気になったものでしてな。お疲れになられたのならば遠慮なく休んでくだせぇ。ここから先は一言足りとて聞き漏らし無きようお願いしやすよ。アナタ様がお休みになられている間、話は中断する所存でございますが、聞こえているかいないかなんて判断しようもありませんからね。聞こえているならばよろしい。先を続けましょう。  さてさて。そんな折に一般人代表のような私は、当時もネットの世界に没頭しておりました。ネットが何かって? インターネットの事でごぜぇますよ、インターネット。略してネット。何、違う? 私のような時代錯誤の人間が、ネットを扱うのか気になったと? あぁ、なるほど。もっともなご意見でしょうな。このような口調で語り掛けられちゃ、誰もが気になる点でありましょうや。ネットは並みの人間なら誰もが扱えるものでありますからな。私にも扱えてしかるべきでごぜぇますよ。  という訳で、ネットの海を鼻の向く先ならぬ視線の向く先、ゆらゆらと気ままに航海しとりますと、あるサイトにたどり着いたんですわぁ。特段、何かを感じた訳ではありやせん。例の如く、誰もがそうするように導かれておった次第でありました。運命だなど、大それたことを語るつもりはございませんが、しがない社会の歯車である自分の運命は、この時大きく狂わされたのだと、今にして思うのです。  などと、当時の私が考え付くはずもありゃしねぇ。先の事なんぞ誰にも分からねぇんだから仕方ない。やめればよかった。などと頭に浮かぶ事も無く、何の気も無しに読み進めていったんですわぁ。内容は必要に応じてお伝えしやしょう。だってお聞かせするにあたり、さして重要な事柄ではなかったのでありますからな。わずかばかりの好奇心を掻きたてるような、他愛のない。いや、ハッキリと申し上げますと内容の薄いものであったとだけ、ご承知おきくださればよろしいでしょう。  歯牙にもかけぬ内容故に、容易く脳内に入り込んで来やした。ちょうど川の水が海に流れ込むように、自然な事でありながら異質な物が入り込み、ものの見事に溶け込んだのであります。覆水盆に返らずとのことわざが、まさしくふさわしいでしょうな。一度頭の中に入れてしまった情報は、そう易々と取り除けるものではありゃしやせん。今もなお私の精神を蝕んではおりやすが、至って正気。悪い所を自覚しております故に共存できるという訳でごぜぇますよ。
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