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「よくぞお越しくださいやした。お前さんに会える日を、首をなごうしてお待ちしとりました。人と会うのは久しぶりでのうて、可笑しな日本語使うかもしれんが笑って見逃してくだせぇや。こんな所におっては、陰気臭くてありゃしねぇ。  さぁさ、もっと近くにお寄んなさい。私の話は荒唐無稽で奇想天外な事であり申して、現実は小説より奇なりとはよく言ったものだと常々考えていた訳でございやす。アナタ様が信じるかはさておき、私自身の体験をつらつらとお伝えする次第でございますとも。お前さんも人間だろうて、すぐに疲れてしまいまさぁ。そんときゃ迷わず休んでくだせぇや。  そんな身構えねぇで、何を怖れていらっしゃる。私は怖い話をするんじゃなかろうて。ただ、言うことはよぉく聞いた方がよろしいでしょう。先人たちの経験譚は、そらぁ退屈で仕方ない事に違いねぇが、いつの日か役に立つことも違いねぇ事でありますからな。ここで言う先人とは私の事であり申して、言うことを聞くべきは他ならぬアナタ様であることをお忘れなきように。  画面を消して、顔を上げてくださいまし。お前さんの顔が幽霊みたいに見えるんですわぁ。私とて幽霊なんぞ信じちゃいねぇし、ましてや神も仏もありゃしない。奇天烈な経験をする前の私はそう思っていた訳に有ります。神や仏についちゃ今でも信じちゃいねぇが、幽霊かはたまた妖怪か、もしくは天使か悪魔か。たちの悪い悪戯好きがいるとは思っております。そうでなければお医者様が言う、幻覚でも見ていたのか。普通なら考えられねぇ事を経験したんですわぁ。  確かにあの時は神経衰弱だったかもしれやせん。しかし今は、この通り正気でごぜぇますよ。アナタ様とこうしてお話しできておりますし、食事も運動も、問題なんてありゃしない。真っ当な人間ならすぐにでも開放するでしょうが、医者はそれを許さない。話も聞かずに延々と閉じ込めやがる。だからこそ、アナタ様とお話しできる機会があると知って、私は大層舞い上がったのであります。  話をよぉく聞いて。自分がまともであると、どうか伝えてくださいまし。何も問題ないことを、お医者様に進言してくだせぇ。きっとお前さんの言葉なら、少なからず揺り動かされようて。さぁ、もっと近くにお寄んなさい。画面を消して、顔を上げて。私の身に起きた出来事を、しっかり想像してくだせぇや。それが私の為にもなりましょうからな。
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