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女房とタタミは『古い方』が良い。
——着いたぞ。降りてこい。
メッセージの着信音で目が覚めた。携帯を確認し、なんだこれ、と、その意味をよく考えもせずそのまま放置して、のそのそとベッドから這い出しトイレを済ませ顔を洗おうと洗面所へ行くと、鏡にA四コピー用紙がセロハンテープで貼り付けてあった。そこには赤いマジックで、でかでかと書かれた、やっぱり汚くて読みにくい字が。
『遊びに連れてってやる。九時までに支度をしておけ。遅刻現金!』
なんだよ、遅刻したら金取られるのか、と、ぼーっとした頭で思いながら紙を鏡から引っぺがし、ぐちゃっと丸めてゴミ箱へ捨てた。
酷い顔だ。瞼が腫れて目が半分しか開いていない。顔全体もなんだか浮腫んでいる。鏡に映る自分の顔を見て溜め息をついた。泣き過ぎだ。
今日が平日ではなかったのが、せめてもの救い。弥生さんと晶ちゃんにこの顔を見られたら間違いなく心配させてしまうし、突然の打ち合わせに呼び出されるかも知れないドキドキも無い。
「どーするかな……この顔」
鏡に顔を近づけて両掌でグニグニとマッサージしていると、突然ドカドカっと音がした。ビックリして扉の方に顔を向けると、俊輔が怒った顔をして突っ立っている。
「おまえ……なにやってんだよ!」
「へ? なにって?」
「遊びに行くって、ここに貼っといただろうが!」
「ああ、それ? 今見たけど、それがどうかした?」
「どうかしたじゃねーよ! なんで今頃見てんだよ?」
「だって今起きたんだもん。そりゃ今見るでしょーが」
「アラームは?」
「なにそれ? 知らない」
「…………もういい! 出かけるぞ! 急げ!」
「えーやだー! こんな顔で外なんか出たくないよ」
「どーせおまえの顔なんて誰も見ねぇから心配すんな。待ってるから早く支度しろ」
ドタドタと足音を響かせ最後は玄関ドアが乱暴に閉まった。なぜ出て行ったのだ。あいつはどこで待っているつもりなのだろう。ああ、外か。
細かいことを考えても仕方がないので、取り急ぎ歯を磨いて顔を洗ってスッピンのまま適当な服に着替え、バッグを手に持ち外へ出た。
エレベーターを降り正面玄関を出ると、真ん前に停車している黒いミニバンに寄りかかり、顰めっ面で腕組みをする俊輔が。気は進まないが、仕方なくゆっくり奴に近づいた。
「おせぇぞ!」
俊輔は私が寝坊したことに腹を立てているのかも知れないが、そんなことは私の知ったことではない。こっちこそ、寝起きで意味もわからず怒鳴り散らされているのだ。機嫌が良いわけがない。
「……やめた」
部屋へ戻ろうと踵を返すと、後ろからぐいっと二の腕を捕まえられた。
「ちょっと! なにすんの?」
「いいから、早く乗れ」
ミニバンの助手席に押し込められた。
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