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勤勉なる女とは
待ち合わせ場所には、あたしが先に着いた。
なんせ派遣なものでね。
基本定時なのよ。あたし達。
今の職場は仕事もまぁまあ楽で、人間関係もそこそこ。
そりゃあ嫌な奴も居ないことはないけれど、そこは妄想とスルー力でなんとかなる。
こういう所ばかり成長していくのって、あんまり感心出来ないだろうけど。
それにしても……。
待ち合わせ場所は、金曜日の夜ということもあるのか、カップルが多い!
リア充共め! 爆発しろ! ちょぉっと気温高くなってきたからってフナムシみたくワサワサ湧いてきやがって。
どうせなら男同士のカップルでも歩いていたら楽しめるのにぃぃっ!!!
………なんて傍若無人な事思ってるけど、あたしだって男の人と待ち合わせだもんね。
しかも『一応』結婚前提とした付き合いの彼氏。
でもなぁ。
いまいち気乗りしないっていうか、ピンと来ないというか。
あたしと龍之介さんとならもっと違う関係が築けそう、築きたいのが本音なんだよねぇ。
もしかしたらあっちもそう感じているんじゃあないかな。
あ。別に相手が悪いなんて欠片も思ってないから。
むしろ100%あたしが問題あり。
リアルな恋愛未経験でこじらせちゃったのかな。このままだと、このまま30歳過ぎる。処女のまま!
童貞なら魔法使い、だっけ。処女なら魔女にでもなれるかな。なれたらいくらでも守りきるけどさ。
結局なれるのは孤独死待ったナシの拗らせ女なんだよね。きっと。
「………はぁ」
ため息をつけば、この多くの人達の中で一番惨めな存在なんじゃないかって気すらしてきて疲れてきた。
「ため息つくと幸せ逃げるって言うらしいよぉ?」
「えっ?」
いつの間に隣に居たんだろう。右隣にぴったり寄るように立っていたのは、大きなお腹に見上げるほどの高身長。ムチムチとした身体。
あ、あの熊だ。黄色い熊の妖精だ。国民的に有名なネズミの配下のアイツ。
そりゃあ人だから完全一致じゃないけど、イメージはそのまんま。つぶらな瞳をぱちぱちさせて首を傾げてるその様は何処のゆるキャラですかってくらい愛らしくてほんわかしている。
よく考えたら、身長2メートルくらい?のやたらでかいぽっちゃりな男の人。しかもすっごいこっち見てるし、ピッタリ隣に来ていて距離近い。
そうなんだけど。警戒心が働かないくらいのインパクトと可愛らしさ。………変な生き物。
「あ、あの、どちら様で?」
予想外の事でドギマギして聞けば、つついたらさぞかし柔らかいだろうなって頬を緩ませて笑った。
「驚かせてごめんねぇ。ボクね、君の彼氏の友達なんだぁ」
友達?もしかして仗さん?いやいやいやいや、違うくない!?聞いてたのと違いすぎる。
「………いい加減なこと言ってんじゃねぇぞっ! このクソ熊野郎がぁっ!」
熊さん(仮に命名)のいる方向とは逆の方、左側からはえらくガラの悪い声が聞こえて思わず首を向けた。
またいつの間に来たのだろう。熊さん(仮名)程じゃないけど高めな身長に、こちらはスマートな体格のイケメンが眉間に皺を寄せて立っていた。
こちらの彼はハーフなのか少し濃いめで、どこの俳優さんかモデルさんですかって感じ。色気半端ない。
「大塚!なんでテメェが居るんだよ」
イケメンが吠えた。熊さん(仮名)が動揺した様子は欠片もなく、変わらずニコニコと笑っている。
「たまたまですよぉ」
「龍之介に聞いたのか? 今日は彼女とデートだって」
「そういう先輩こそ。待ち合わせ場所はどうせスマホ盗み見したんでしょ?」
「んなもんテメェもだろ」
「んふふふぅ」
え。なんなのこいつら。まさか。
「えっと………もしかして、貴方が丈さん」
こっちのイケメンが龍之介さんの友達か。そして。
「ボク大塚ですぅ。後輩で、彼のお気に入りですぅ。うふふふふ」
会社の後輩かな。大塚さん。声もあの熊さんに似てる気がする。
イケメン、いや丈さんは苦々しい顔で舌打ちをした。
「ただの後輩だろ。俺はあいつの幼馴染で付き合いも長いんだからな」
「悪口言われてるくせにぃ」
「あ!? なんで知ってんだテメェ! ……あっ、まさかまた盗聴器仕掛けてんじゃねぇだろうなっ!」
「ん~ふ~ふ~🎶」
んんっ?『また』って言ったよね今。するとなに、この人見かけによらずストーカーってこと?
福々しい恵比寿顔が薄気味悪く見えてきた。
「誤魔化すな。あと、あいつの俺に対するキライとかイヤとかは即ち『好き』と『嬉しい』だから!」
「うわぁ。そういう自分に都合よく解釈しちゃうのってストーカー思考っていうか、性犯罪者の供述ですよねぇ」
「んだと、テメェ!この百貫デブ!」
「ボクの身体には脂肪の他に、愛が詰まってるんですよぉ」
「脂肪100%だよ! その頭中、ドロッドロの蜂蜜なんじゃねぇの」
「蜂蜜ねぇ、ボクはメープルシロップ派かなぁ」
「テメェの好みなんて知らねぇよっ!」
仗さんが怒れば、大塚さんがニコニコとピント外れな事を言い返す。
ギャーギャーと煩いし他人の視線も痛い。二人の間に挟まれたあたしがすっごく不憫。
だってこれ、一見すれば女(あたし)を巡って男二人が喧嘩してるように見えなくもないんだから。
わぁモテ期!これってモテ期ねってウフフ、ってできるほど頭お花畑じゃないからね?
現実はここにいない男、あたしの彼氏を巡っての喧嘩だし。こいつら二人ともなんか彼氏のストーカーっぽいし。微妙なラインで病んでるし。
「………あの。二人共、あたしの彼氏、のこと好きなんですか? もしかしてストーカー行為とかしてます?」
一応聞いとくか。認識改めとかなきゃだし。
「好き? ストーカー? うふふふ。姫乃薫子……もうすぐ30歳、現在実家暮らし。住所は……」
怖っ、なにこのプーさんモドキ! 人のフルネーム年齢、住所まで把握してやがるじゃないの。
「いやいやいや、俺はストーカーじゃねぇよ。そいつのことが全部知りたくなるのが恋人ってもんだろ、な?」
「………ドヤァしてる所悪いけどね。恋人は一応あたしですし。そういうのがストーカーって言うんでしょうがよ」
サイコパスっぽい熊さんと勘違い系の残念イケメンか。
あー、そろそろ頭痛くなって来た。ヤンデレも濃いキャラも胸焼け気味よ。
考えるのを止めたくなって空を仰ぎ見た時だった。
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