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「………遅くなってごめんね! って、えええッ!!」
息を切らせて現れた龍之介さんとって、何故かこっちが申し訳なくなる展開になっている。
知り合い達が彼女との待ち合わせ場所に自分より先にいて、喧嘩してるっていう思いもよらない状況だものね。
「仗も大塚君も、なんで居るんだよ。え? もしかして姫乃さん、知り合い?」
あたしは黙って首を振った。
いいえ。いまさっき突然やってきて、人の個人情報を知ってるアピールやらストーカー的発言して、終いには不毛な言い争いを聞かされましたよ。
………なんてことは口にしなかったけど。
「これからデートか?」
あたしと彼との間に割り込んだ仗さんを、彼はキッと睨みつけた。
「だったら何だよ」
「ふぅん。お前が。この子と」
含みのある表情で笑う姿に、更に表情を険しくする。
「僕は彼女の恋人なんだから、別に文句ないだろ!」
「こ、恋人………」
すごく悔しそうな顔で怯んだ友人の態度に気を良くしたのか、彼は更に言葉を重ねた。
「いくら君でも彼女だけは渡さないからなっ! 彼女は僕の恋人で、結婚相手なんだからな! バーカ!」
そう言ってあたしの手を握った。
何故だろう。全然ドキドキしなかった。
むしろハラハラした。
絶望感たっぷりな仗さんと、相変わらず笑ったように見えるけど実は笑っていない大塚さんの目がすごく怖かった。
あ。これ殺られるわ。只今をもって、あたしは凶悪なホモ達の恋敵になりましたよっと。
龍之介さんは勘違いしてる。
めっちゃ鈍い子。この人。
ヒロイン?ねぇヒロインなの?天然系のかわい子ちゃんポジションなの?
んでもってあたしはアレか。当て馬か敵役か。一番そんな役割の。
別に良いけどね! ホモが見られるなら。あたしの好物は二次元だけじゃないし。
そんなことをつらつらと考えていると、龍之介さんはあたしが不安に思っているとでも思ったのだろう。繋いだ手を引いて優しく肩を抱き寄せた。
「えっ! ちょっ、あ、えええっと」
「………大丈夫だから」
おまけに優しく囁いてくれちゃって。思わずドキッとしたよ。
うん。このシチュエーションはアレだよね。少女漫画とかであるやつ。
少し強引だけど、いやだからこそキュンキュンしちゃうやつ。
「大塚君にも紹介しておくよ。………そう言えば薫子さんは二人を知ってるの?」
「え。はい。知ってます。そっちの方が後輩の大塚さんで、そっちの方がお友達の岸さんですよね?」
二人からの痛い視線を受けながらも、辛うじて笑顔を保つ。
「………こいつは友達なんて言うレベルじゃあないけどね」
顔を顰めてボソリと呟いた言葉をあたしは聞き逃さなかった。もちろん丈さん本人もだろう。
「それってどういう………」
アレですか!? BL的なアレか?アレなんですかっ!
期待を込めて聞き返すが、彼はふいっと視線を逸らして気まずそうに。
「く、腐れ縁、的な?」
小さく答えた顔は少し赤らんでいて。うんうん!!グッド! ツンデレの顔ですね。
仗さんも同じこと考えたのか、無言でソワソワしている雰囲気は感じる。
敢えてそっち見ない。見るとまた睨まれそうだし。
あと、大塚さんからの視線に殺気が混じっているような気がするのは気の所為だろうか。気の所為であって欲しい。
くまの●ーさんのサイコパスで殺気立った顔は見たくない。夢に出そう。
ナイトメアか、ディ●ニーもう行けないよ。
その場のなんとも言えない雰囲気にいち早く音を上げたのか、龍之介さんが突然。
「ほ、ほら! もう行きましょう! ね、薫子さん」
慌てた様子で手を引いて、振り切るように少し早足歩き出した。あたしは半ば引きずられるようにその場を後にした。
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