2人が本棚に入れています
本棚に追加
付き纏いは犯罪です
「ストーカー対象変えるのやめてくれません?」
ため息混じりで吐き出された言葉に俺はせせら笑った。
「勘違いだよ。もしかして自意識過剰のタイプ?」
敢えて挑発するように言ったのは間違いなくこの、薫子という女を怒らせるためだ。
「………だと良かったんですけどねぇ」
しかし怒るどころか面倒くさそうに返されて、内心首を傾げた。
この女、見た目より厄介かもしれねぇ。
一見すればそこらに溢れている地味でパッとしない女だ。顔もよく見りゃ悪くないのに、化粧っけのなさと(主に俺に向ける)表情の薄さにかなり勿体ない事になっている。
「君さぁ。若いのになんか勿体ないよね」
こういうのが好きな男もいるのかもしれないが。少なくても俺のタイプじゃねぇな。
「こっち向いてよ………結構可愛い可愛い顔してるじゃん」
肩に手を回して少し強引にこちらに顔を向けさせる。
声のトーンを僅かに落として、ごく自然に距離を詰めて囁いてやる。
「………そういうことして、楽しいですか?」
う。冷たい声。半眼で冷めた瞳が二つこちらを見ている。
そこには呆れという感情しか読み取れない。
「こう言ってはなんですけど。……邪魔です」
「え」
怯んだ俺に更に畳み掛ける。
「買い物先で偶然と出会うの、これで何度目ですか?………五回目、五回目ですよ!いい加減しつこすぎですよ。アンタ暇なのか!? 暇なんだよね!?」
さっきの表情に苛立ちの色が混じった。俺は思わず後ずさるが、今度は彼女が俺の腕を強く掴み引き寄せてくる。
こ、この女。力強いっ、ゴリラか!
大人しい顔してなんてバイオレンスなんだ。キャンキャン喚くこともなく、表情を故意に消したような顔でギリギリと掴んだ腕をしめあげてくる。
そ、そりゃあ。行く先々で現れたら怒るか。
でも! 俺は一度だって自ら出てきた訳じゃねぇ。この女が隠れている俺を見つけて『なにしているのか』って聞くんだ。
「アンタの尾行がバレバレなんですよ」
舌打ちしながら言うものだから、女と言えど迫力満点で怖い。
怒ると怖い女ってこういうやつのこと言うのね、と背中が冷や汗で冷たくなる。
「分かった分かった! もう付きまとったりしない。本当だ。だから………離してくれ」
降参だ、と掴まれていない方の腕を上げる。すると彼女はようやく手を離して、ふいっと別方向に向かって歩き出した。
「少し話しましょ」
笑いを含んだ声でそう言って。
最初のコメントを投稿しよう!