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危機感さえあれば
「そう言えば、姫乃さんがお前のこと知りたがってたぞ」
「………あ? 知らねぇぞ、女か?」
時刻は深夜一時前。会社終わりに知り合い伴って飲みに誘って、三件目に自宅に連れ込んだ。
我ながらがっつき過ぎかなとは思うけど、仕方ないよな。こんなに鈍いこいつが悪い。
「もう忘れたのかよ。ほら、この前話した女の子だ」
あーあ、どこぞの女のことなんて良いから。ネクタイ外して、もっと寛げよ。その窮屈そうなスラックスも脱がせてやろうか? ん?
………なんてこと口に出したらぶん殴られるし、多分意図は100%伝わらないから言わない。
その代わり黙って思い出すフリしてネクタイ外して首元開けてやる。あと水も用意だ。これ以上は酔わせたくないしな。
龍之介はあんまり酒が強くない。明日は休みだけど二日酔いとか辛くて可哀想だろ? うん、俺って優しい男だよな。こいつ限定だけど。
「んーんーん?ほら水飲め水。あ、薫子ちゃんか」
29歳婚活女か。今一番俺がムカついてる女だな。
勘違いして欲しくないのか、本来、俺って女の子には優しいんだ。
手を出すのも向こうもそれを望んでいる娘に限定してるし、たまーに本気になって別れる時泣いちゃう娘もいるけどそういう時も傷は浅く済むように考えてやる。
そういう男だ。ま、こいつに言わせると軽薄でヤリチン、クズ野郎ってことだけど。
でも例外はある。
龍之介に近付く女、しかも結婚しようって女は許さない。
あいつは元々そんなに女に、というか恋愛そのものにあまり興味はないと思っていた。
それが最近なんだ? 結婚?婚活? つまんねぇこと始めやがって。
おかげで俺の誘いを断る日が増えちまったじゃねぇか。
どうせ親とか親類とか余計なことを吹き込まれたか、世間のつまらねぇ価値観に晒されて一時的に毒されているだけだろう。
俺は結婚なんてとんでもない。人生の墓場だ。束縛だ。子供でも出来ない限り意味は無い。
もしかしてこいつ、子供が欲しいのかな。うわぁ、寒気がする。こんな時代に子供なんて産んで育てるなんてエゴもいいとこだ。本能に踊らされた猿かよ。
俺みたいなガキ増やしてんじゃあねぇよ。
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