危機感さえあれば

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「お、おい?なんか顔怖い」 くだらねぇこと考えていてすっかり心有らずになっていた。龍之介が不審そうな表情で顔の前に手をかざしている。 嗚呼、今日も可愛いなぁ。これで35歳。今度36か。奇跡だこりゃあ。 少し汗かいてる?暑かったかな。首筋から鎖骨にかけて、色気半端ない。ヤバい勃ちそう。つか勃った。 「………いや。別に。んでなんだって?」 少し前屈みを意識しつつ、精一杯繕った顔を向ける。すると龍之介は不機嫌極まりないといった様子で口を尖らせていた。 「ったく、聞いてなかったのかよ! だから、僕とお前が仲良しで羨ましいってしきりに言ってたんだよ。………おかしいよなァ。僕お前の悪口しか言ってなかったのに」 「ふぅん、って龍之介ってば俺の悪口言ってたの!?」 悪口ったってアレだろ、ツンデレのツンってやつ。 「うん。本当のこと言ったら悪口になってた」 「なんだよそれぇ」 「ガチでクズ野郎だって。見た目しかいい所ないって」 マジなやつだった。 「うへぇ」 辛辣な所もいいな。でも、そんなクズ野郎の傍にいてこんなに無防備な姿晒してくれてんだよな? うーん。こいつが本気で結婚したいのなら、俺だって譲歩してやろうかな。 よし、決めた。 「………なぁなぁなぁ!!」 「な、なんだよ!いきなり大声だすなっ、お前さっきからなんか怖いんだけど」 んん!? ちょっと待てよ? 結婚するならプロポーズだよな。 いやいやまず付き合わなきゃ駄目だ。 そこであの女の存在をようやくちゃんと思い出した。そういえばこいつ、龍之介の爪にペディキュア塗りやがったんだよな。生意気な女だ。 「………うーん。やっぱり邪魔、だな」 と思わず心の声が口をついて出てしまえば、思ったより声がでかかったらしく、怪訝そうを通り越して心底心配そうな顔をさせてしまった。 こういう所優しいんだ。惚れるよなぁ。惚れないわけがねぇ。 「だ、大丈夫か? 具合悪いなら今日はもう………」 「いや。元気だ。もう元気いっぱい」 なんなら身体の一部分も超元気で大変なくらいだ。 「そ、そうか。でもそろそろ」 まだ何を気にしているのか腰を上げて帰ろうとするRの腕を、グイッと掴みこちらに引き寄せる。 不意打ちでふらついた足はよろけて、身体もこちらに倒れ込んでくる。 「っ!?あっ、いたぁっ!!」 「おっと、すまん」 もちろんできる限り優しく抱きとめてやる。その流れで唇を耳元に近づけて、囁さくように言った。 「なぁ。薫子ちゃんのこと、もっと教えてくれよ」 「は、はぁっ!?い、いい。けど」 「ほら、親友の恋人の事って興味あるからさぁ」 抱きとめた身体が一瞬固くなったので正しく取ってつけたように言ったが、あいつは信じたようだ。 さてさて、まずは住んでるところの詳細と勤め先からかなぁ。 姫乃薫子のゴールドのペディキュア。俺は挑戦状だと受け取ったからな。 少々えげつないかもしれないが、ごめんな。 なんか調べてみれば数は少ないなりに色々と方法はありそうだ。 ………嗚呼、楽しみだ。
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