婚活とはひとつの出会い也

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何度も言うが、彼女は悪くない。おかしいのは僕だ。 この歳になって恋愛して結婚したいとか、なんて夢見る乙女かって話なんだよな。それは、分かってる。 「おい」 でもな。この前、セックス出来なかったし。 「?」 男って性欲さえあれば気持ちはさておき、勃つんじゃあなかったのか!?いやいや。途中までは良かったんだ。でもなぜか途中から……あれ、なんでダメになったんだ?ええっと。 「おーい!」 あんまりにも忘れたい過去過ぎて、本当に忘れちまったじゃあないか! 「おいっ、龍之介!」 馬鹿でかい声で名前を呼ばれて、うるさいなァと振り返れば目の前に見慣れたイケメンがガンつけていた。 「………っ!!あ。仗か」 彼とは同じ会社だが、部署が違うせいか社内で顔を合わせるのは珍しい。 「お前さぁ。俺を無視するなんて、ほんといい度胸してるよな」 「なんだその一昔前の不良みたいな絡み方は」 いい歳したオッサンがやめてくれよ。 ため息を付けば、途端に口を尖らせて拗ねた顔をする。 「だぁってよぉ、龍之介ってば何回声掛けても無視するんだもん」 「もんってなんだよ。気持ち悪い」 こういうガキっぽい男も女からすれば、可愛いとか母性本能云々とかってモテたりするんだろうな。 結局顔ってことか、と腹立たしい気持ちになる。 思わず目の前の顔の頬を軽くつねる。 「痛っ、何すんだよ!」 当然抗議の声を上げてくるが僕は顔を背けた。明らかに自分の感情が子供じみた嫉妬で、馬鹿みたいだってわかっていたからだ。 「なぁ。今夜どうだ?」 「用事がある」 後ろからかけられた言葉に、振り向かず答えた。 数秒、間が空いた。訝しんで振り向こうした時、ようやく返事が返ってきた。 「………薫子ちゃんか?」 「人の彼女を勝手に気安く呼ぶんじゃあないよ」 「なぁ、そうなのか?」 なんだこいつ。人の言葉も聞かず。どこか必死な声色を聞いて、さすがに僕は振り返った。 「そうだけどそれが何か?……っておい」 なんて顔してんだ、という言葉は飲み込んだ。 なんかえらく沈んだような、辛そうな痛そうな表情をしていた。 しかしそれも一瞬で変わり、いつものニヤニヤと締まりのないムカつく顔に戻っていた。 「ふぅん? ほんっと良いよなぁ。今度俺も会ってみたいなぁ。なんて」 「は? 別に良いけど、彼女お前のタイプじゃあないと………」 確か仗の歴代の彼女達は軒並み美人で派手なタイプが多かったと記憶している。 彼女は可愛いとはおもうが、そういう感じじゃあない。ああ、でもこの男なら関係ないのか。 そう思うとなぜか胸がグッと詰まるような、重たくなるような痛いような。そんな感覚に突然襲われた。 「どうした」 突然言葉を切って黙り込んだ僕を心配したのか、丈が顔を覗き込んでくる。 何故かそれがすごく恥ずかしいような、見られたくないような気持ちになって僕は腕で顔を隠すと走るようにその場を去った。 「おい! なんだよっ、おいってば!」 後ろからあいつの喚く声が聞こえるが知ったことか。とにかく逃げ出さなければ。あいつから見えない所に。 「………っ!!」 そう思って走っていたが、前を見ていなかったのが良くなかった。突然何かにぶつかった。
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