凶器は無慈悲な祝福の本

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今年 少し早い夏休みとして帰省したのは東日本大震災の年 年度でいえばその次の年度 あれから何年経っただろう 大学を離れ 勉学から離れ 十数年抱き続けしがみ続けたはずの夢から離れて 研究の道を志したのは幼稚園の年長だ そして浪人の一年、そして癒えぬ傷に耐えられなくなった大学四年次 幼稚園は無邪気で楽しかった 小学校はよく学び面白かった 中学校は傷の始まりと将来への展望 高校は致命傷をくれて大学に行けば違うからと放逐し 中学高校の唯一誇れた部活の成果は消され後輩から送られることもなく 浪人の一年間で癒えぬ傷を隠すことを覚え 大学で嘔吐しながら隠して歩み そして倒れた また歩けなくなった文字通りに 転ばぬ先の杖をつかなければ歩けない 人込みから声が聞こえる 死ねとキモイと臭いと消えろといなくなれと 分かっている幻聴だ思い込みだ 誰も個人を特定して話すことなどできないしそんな注目されるわけがないと でも 表層ではなく もっと奥深くから聞こえてくる 外からではなく中から 当時の言葉が 当時の状況が 当時の記憶が それらは思い起こさせる そんな人間が庇われ傷つけられ続けた恨みと そんな人間が野放しにされたままであることへの怒りと そんな人間が存在しているという悲しみと そんな人間に邪魔されることが当然である世界への諦め それでも立ち上がろうと 時間が経過したのだと大学時代の勉強道具を取りに行くことに決めた それと同時に当時を振り返ることにした 卒業アルバムを探そうとした 高校創立三十周年がちょうどあったからあるいはその記念誌があったはずだと そして一冊の本を手に戻ってきた それは2016年11月09日発行の創立四十周年の記念誌だった
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