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そう……先など見えない。こんな砂嵐では、先なんてとても見えたものではない。風は一層強まり、一層大量の砂を巻き上げ、見えるものといえば、目を開けさせまいと飛び込んでくる砂粒くらいなものだ。地面にしがみつくように思わず身を屈めてしまえば、もはや力尽き伏しているようにしか見えなかった。
急き駆けたい気持ちを抑えて、ゆっくり、ゆっくりと着実に、這いつくばってなんとか岩陰に入れた。腰を下ろしてやっと頭が隠れるほどの背の低い岩だが、お陰で一息吐ける。風は収まる気配がないが、少年はひとまず胸を撫で下ろした。
マスクを外して帽子を裏返すと、砂がまるで水のように流れ落ちてきた。どこにそれだけ入っていたのか、叩くとまだ出てくる。最後の一粒まではたき落とすと、髪色を変えるほど纏わりついた砂も払い飛ばす。濡れた犬のように頭を振り乱すと、すぐにまた砂まみれになるとしても、少しは気分がさっぱりした。
身体を伸ばし、凝り固まった首を回し、ふと隣を見ると、そこには先客の姿があった。どうやら旅人のようで、似たような一般的な旅着を着用している。しかしそれは風砂に削がれたのか、褪せた色をしていた。
行先はどうあれ、同じく旅をする者として、この思い掛けない出会いを喜びたい気持ちは山々だった。しかし、それが叶わないことは一目瞭然だ。風で捲れた布から顔を覗かせた骸骨を見ると、削がれたのが旅着だけではないことがわかる。
少年のように、ここで砂嵐をやり過ごそうとしたのだろうか。あるいは、別の場所からたまたまここまで運ばれてきたか……。この旅人はもう答えてくれない。しかしどちらにせよ、その姿は、まさにこの場の危険性を如実に物語ってくれている。
あまりじっとしてもいられないようだ。かと言って、立ち上がり砂に身を晒す勇気は、まだない。
どうしたものかと、渋い顔で岩にもたれかかると、なにやら変な音が聞こえる。辺り取り巻く、ごぉう、ごぉう、という風とは別に。辺り過ぎゆく、ざぁさぁ、ざぁさぁ、という砂とは別に。小さな金属音が、すぐ近くから聞こえてくるのだ。
耳を澄ませてみると、どうやらそれは真下で鳴っているようだった。直に頬を当てて正体を探ろうとしたその時、地面がぽっかり口を開ける。わぁっ、と叫ぶ間もなく落ちた少年は、まるで忽然と姿を消したようだった。
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