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「やぁ少年」
男の声。低くはないが深みと響きがあり、どこか自信に満ちている。
かなり高いところから落下したと思っていたが、なんてことはない。立てば、首から上が外に出る。地下に通路があったのだ。強く打ちつけた背中とは裏腹に、痛みは胃の少し上あたりで充満している。動くのが億劫になるほどだが、どうやら助かったようだ。
「ありがとう」
「礼には及ばない。私はただ外を見ようとしただけだ」
扉が閉められると、光が失せ暗闇に包まれた。男の姿は輪郭すらはっきり見えないが、しかしその口調や雰囲気から、およそ父親ほどの目上であろうと察することができた。
「ついて来たまえ。こちら側にいたのなら、向かう方向は同じと見た」
手早く火を灯すと、男は三歩進んで立ち止まり、いつまでも腰を上げようとしない少年に背中越しに尋ねた。
「風と砂が恋しいかね? それとも、その者は君の連れだったか」
男の手元から漏れ広がる灯りが、少年と、彼と共に落ちた元旅人とを照らす。それを見て慌てて立ち上がるものだから、少年は頭を強くぶつけて、またうずくまるのだった。
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