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「いやぁ、偶然通りかかってよかった。さもなくば、君もさっきの彼と同じ末路を辿ったことだろう」
横穴はとても長く、いくら歩いても出口らしき光が見えてこない。幽かに聞こえる風鳴は呻き声にも似て、心細さと不安につけこんで背後から迫ってくる。
そんな道中を、男はほとんど喋りっぱなしだった。少年もはじめの内は、それに対して丁寧に相槌を打っていたが、語り部のように延々と繰り広げられる話に、やがては耳を傾けるのもままならなくなっていた。おまけに、さっきのような縁起でもないことを平気で口にするものだから、それが男の気遣いと知る由のない少年には、少しやかましくも感じた。
しかし男がたとえ無口であったとしても、少年の気は十分に紛れていたことだろう。不思議なことに、男はやけに滑らかに歩くのだ。この狭い通路で、少年は腰を曲げて小走りでついて行くのがやっとだというのに、どういうことか、男の背腰はぴんと伸びているように見える。
「この辺りは常に砂嵐だと思っていい。止むことはないし、今よりもっと強くなることもある。外を歩いて渡るのは自殺行為だ」
圧し掛かる疲労で、男の話などもはや風鳴程度にしか聞こえていなかったが、視線が疑問という糸で男の背に釘付けになっていたことで、余計なことを考えずに足を運ぶことができた。
「見たまえ」
そんな少年を尻目に、杖だろうか、男は手にした棒切れを前方へ掲げた。ぼんやり照らす小さな火の灯りとは違う、強烈な、まだ遠いがたしかに強烈な光が射し込んでいる。出口だ。
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