野良球男

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野良球男

 やがて日本のベビーブームは去り、天界も落ち着きを取り戻し始めた。  神様も無事に職場復帰し、天使一同で下界を観察する余裕も出てきた。  しばらくすると、人間界は未曾有の政治不信から世界的不景気に陥り、あの日本でのベビーブームが嘘だったかのように、今度は逆に子供を作ることを控える風潮が訪れた。  それなりに仕事はあるが、あの嵐のような繁忙期と比べれば雲泥の差である。 「子供は授かり物なのにねぇ」などと忙しさで文句を言っていたことも棚に上げ、呑気な言葉もあくび交じりに出る始末だった。  こういう時代──少子化が進み先行きの見えない不安な中で、世の中に望まれるもの。それはわかりやすい英雄である。 「そろそろ英雄の登場も見てみたい頃だねぇ」  ある天使が口にすると── 「あ、そういえば“百年に一度の野球の才能”の子っていなかった?」 「いたねぇ、見てみようか」 「じっくり観察してみたいな」  そんな具合で、天使たちはその男の子をモニタリングしようという流れになった。
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