29人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
いつも楽しみなことがある。
毎朝母が作ってくれる朝ご飯を食べる事、日常という流れの中で、私が幸せを感じられるときであった。
「茉莉! ご飯だよ」
母が私を呼ぶ声が聞こえる。 早起きは得意だ。小学校から続く規則正しい生活リズム、中学三年生になってもそれは崩れていない。
毎朝決まった時間に起きて、髪の毛を整え授業の準備をしていると、いつも決まった時間に呼ばれる。
「はぁーい! 今行く」
階段を下りていくと、梅雨に入る前の父はいつも以上に早起きになり、田んぼの水の管理に出かけていく。
私が椅子に座ると同時に、炊き立ての白いご飯とお味噌汁が目の前に置かれた。
米粒はいつもキラキラと輝き、お味噌汁の香りを胸いっぱいに詰め込むと、一日が始まったと感じれた。
私の住む藤堂家は曽祖父の代から続く専業農家、詳しい面積はわからないけれども、十二町歩と良く耳にするので、おそらく、十二町歩なのだろう。
近所の中では大きく、父一人では無理なので、よく母が手伝っているが、歳には勝てないとボヤく父の背中が増えてきた。
「いただきます」
少し寂しくなりそうな思考を抑えこむように、ご飯をひと口食べると、お米独特の香りと甘みが口の中いっぱいに広がる。
「美味しい」
いつも食べていて思うことがある。
お米も美味しいが母の炊き方も抜群であり、いつも同じ品質を食べさせてくれた。
春先の今の時期はそれほど難しくないが、新米の時期や、収穫間際のお米では、同じ水の量で炊くと必ずと言っていいほど、想像と違った炊きあがりになる。
その微妙な調整をするのが母は上手だ。
おかずは出汁がしっかりと感じられる玉子焼きに、ホウレン草のおひたし、醤油を数滴垂らして食べると、私の箸は無意識にご飯にのびていた。
個人的には最後はおかずの味よりもご飯の味で終わりたいので、最後のひと口はご飯で終わるようにしている。
「ごちそうさまでした」
美味しい朝ご飯をお腹いっぱい食べたら、次は家の玄関を飛び出し裏の畑に向かう。
朝の陽ざしを浴びた育ち盛りの野菜の苗が、私に向かって挨拶をしてくれる。
「おはよう! みんな!」
手前にはお盆過ぎに収穫できる枝豆の苗は青々しく元気に空を目指している。
地面に直接種を蒔いたオクラは、まだ目覚めたばかりで、黒いマルチの穴から、初めましての子もいた。
最初のコメントを投稿しよう!