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もちろん、人間の友だちがいないわけではない、狭い地域なので、大切な仲間は小さいころからずっと一緒だ。
朝の用事を終えると父が軽トラックに乗って帰ってきた。
泥に汚れた長靴がとてもカッコいい。 私の夢は決まっている。
父のようなお米を育てる人になりたい! その想いは日増しに強くなっていく一方だが、友だちや親にはまだ言えていなかった。
父は無口で、いつも無言で食卓につく、しかし、しっかりと手を合わせ軽くお辞儀をすると、丁寧にご飯を食べ始める。
私はその背中に朝の挨拶をすると、首を二回縦に振って答えてくれた。
階段を上り、部屋に着くと着替えを済ませ、学校へいく準備を完了させた。
いつもの農道にある交差点で、幼馴染の朋絵と待ち合わせ向かうのが、私たちの九年間変わらない約束。
「おはよう! 茉莉!」
「おはよう! 朋絵!」
二人で話す内容はいつも変わっているが、最近は朋絵の恋バナばかりで、勇気を出せない彼女に私はいつも声援をおくっている。
一見地味にみえる朋絵だが、顔は整っているうえに性格は優しく、とても気遣いができる子だ。
絶対その想いは通じると私は信じている。
夢は決まっているので、進路も自然と決まっていた。
地元の農業高校へ入学し、勉強してみたい。 家政科も考えたが、より専門性の高い科に入ると決めていた。
朋絵は私と同じ高校を受験せずに、少し離れた場所の進学校を受験すると聞いている。
お互い少し寂しい気もするが、離れていても友だちであることには変わりないと思っていた。
「ねぇ、人の話ちゃんと聞いてる?」
朋絵が少し不機嫌そうな顔でこちらを見つめていた。
意識を別のところにもっていってしまったので、中途半端にしか内容を思い出せない。
「ごめん、別のこと考えてた」
「えぇ! 私がこんなに真剣なのに、もっとマジメに聞いてよ」
「ごめんね。 うん、今度はちゃんと聞くから」
機嫌を治してくれた彼女は、好きな人へどうやって想いを伝えるのかを私にアドバイスが欲しいと言ってくれた。
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