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しかし、今日に限っては彼氏の話題が飛び出さない、なぜならば、今日は先生に自分の進路を伝える日なのだから。
正確には一回目ではなく、既に複数回行われ来た。
なぜ今日が重要なのかというと、今回の面談で決めたことは、親に伝わってしまう。
まだ父の後を継ぎたいと言ったことのない私にとって、それはとても緊張する。
何回か先生に、進路の変更も考えるようにとアドバイスをもらえたが、私の意志が強いと感じ、今はあまり何も言ってこない。
ある意味で、とても楽な面談であったが、今回はそうもいかない。
「はぁ」
私の意志を親に伝えたときはない、緊張よりも怖さが勝っている。
おそらく反対はされないだろうが、父は私にそれとなく農業を薦めてはこない。
母も話の中で普通科の高校の話題ばかりを取り上げるので、そっちに行って欲しいと思っているのではないだろうか。
そう考えると、今まで言い出せなかった。
小難しい名前を暗記する社会科の授業が終わると、ついに面談の時間がやってくる。
部活はまだ終わっていない。 夏の大会を控え運動部は活気づいていた。
園芸部所属の私は、最後の大会はなく、一応三年間の集大成として個人で、何かしらの発表はする。
私のテーマは『稲作栽培において、直播の有用性』という、なんとも女の子ぽさがまるでないテーマを選んでしまった。
苗で植えている父だが、年齢を重ねるごとに辛さが増してきている。
それは母も一緒だ。 そこで少しでも楽に仕事が行えるように、苗でわない直播の有効性を研究しようと思った。
「おーい、藤堂いるか?」
授業が終わり、全員が面談の準備に取り掛かっていると、橋本先生が私を呼びにきた。
どうやら、今日は橋本先生が私の担当のようだ。
そして、最初に呼ばれるのは『何か』ある場合が多々あった。
緊張しながら、別の教室に入ると、先生は私に座るように促してくれる。
「まず、藤堂……今日は担任ではなく俺が担当する。 ごめんな」
「いいえ、私は大丈夫です。 橋本先生もお忙しいのに、私の方こそすみません」
「相変わらず真面目だな。 しかし、俺は忙しくない。 用事があるとすれば、鶏小屋の掃除をしたいぐらいだよ」
その答えに私は思わず笑ってしまった。
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