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決意
新しい月が始まる。
入学から早くも一か月が過ぎ、徐々に生活リズムも整ってきた。
私は入学テストの成績で学年でも上位に入り、授業は別のクラス受けることになる。
透子とは離れてしまったが、戸沢くんとは一緒の授業を受けることとなった。
あまり会話は無いが、挨拶程度は交わせる仲になれている。
あれ以来、浅利さんや小野寺さんは明確に私を避け、悪意も感じるようになった。
美化委員会の新たな取り組みであった菜園も順調とは言い難いが、走りだしている。
この間のラディッシュは、三分の一は収穫でき、透子の参加する家庭部と合同でピクルスを作った。
私が育てた野菜より、少し辛みが強く感じられたが、とても美味しいと評判だった。
それに、透子ほどではないが友人と呼べる人も増え、日々コミュニケーションが増えていっている。
「あ! 藤堂さん! ごめんなさい、また教えてもらえる?」
勉強を教えれるほど、私は頭も良くないが、頼まれると嫌とは言えなず、いろんな人に教えていた。
「おっと、藤堂さん僕にも教えてくれる?」
「ふぇ?」
友だちに勉強を教えていると、不意に後ろから声をかけられた。
私は驚いて変な声を出してしまい、慌てて振り返ると、そこには戸沢くんがノートと筆記用具をもって立っている。
「え? 戸沢くんに教える?」
戸沢くんのテストの結果は知っている。 私よりも上位で唯一勝てたのは、社会ぐらいだった。
「うん、ダメかな?」
目を細めてお願いされる。 でも、本当に私なんかでよいのだろうか?
そう思っていると、彼の背後から勢いよく走ってくる透子の姿が視界の奥に見えた。
「戸沢ぁぁ! 茉莉から教わるのは私だぁ!」
早口で何かを宣言しながら、彼の背中に体当たりをする。
「うぉ!」
バランスを崩して倒れそうになるが、持ち前の運動神経で上手に立て直した。
「なに! 茉莉のこと口説こうとしてんのよ⁉ ほらあっち行った、シッシッ」
手のジェスチャーであっちに行けと表現する透子に、戸沢くんは苦笑いをしながら退散していった。
そんな二人のやり取りを見ている周りの友だちが笑いだした。
悪意のない、純粋な笑いだ。
「まったく、油断も隙もありゃしない。 茉莉に手を出すなんて言語道断なんだから」
「そんな、彼は単純に私に勉強を……」
「それが、ダメ! 絶対下心ありきの展開だから、ダメ! こんな清らかな茉莉を狙うなんて許せない」
鋭い目つきで周りの男子生徒を睨めつけ始める透子をなだめながら、勉強を再開する。
しかし、相変わらず冷たい目線をむけてくる二人の存在が、私の心に重くのしかかってくる。
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