聞こえないけど聞こえてる

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聞こえないけど聞こえてる

聞こえないけど聞こえてる 僕の名前は。ラッキー 生まれてすぐにお母さんがつけてくれたんだ たくさんいいことがあるようにって その名前の通りにお母さんもお父さんも大好きで あったかくて 幸せがたくさんやってきたよ 晴れた日のドッグランとか 毎日のお散歩とか おいしいごはんとかね まいにちまいにち 楽しい日はやってきて そして幸せな気持ちで眠るんだ お母さんたちがお出かけをして帰ってくるときは うれしくて家のドアの前でお出迎え おかえり! そういって笑うと 「お出迎えありがとね」 といっては頭を撫でてくれるのがとても大好きで 心があったかくなったよ そんなあるひ 僕ったらうっかりお出迎えを忘れてしまったんだ どうしてだろう? お母さんの足音が聞こえなかった 眠りすぎて聞こえなかったのかな? だめだなああ こんどはちゃんとしなきゃ でも・・・・ 次の時も またその次も 僕が気が付くと お母さんがおでかけから帰ってきてて お出迎えに失敗してしまった お母さんは心配して 「どうしちゃったんだろう」 ってお散歩の時にいろんな人に聞いていた 「きっと歳だから耳が遠くなったんだよ」 ある人がそういってるのを聞いて 僕はそれがどういうことかよくわからなかったけどね そしてまた、まいにちがくりかえされていくけど 僕はいつでも幸せの気持ちがたくさんもらえてたよ おかあさんもおとうさんもかわらずに愛してくれてたから・・・ 僕の足はだんだんと弱くなってながいことお散歩ができなくなってきた ごはんもあまりたべれなくなってきた そして お母さんのやさしい声があまり聞こえなくなってきたよ 一緒にすんでいる猫の寅吉が 「そういうのを歳をとるっていうんだよ」 と教えてくれて ようやく昔聞いた言葉がわかったんだ 寅吉は耳もきこえているし ご飯も運動もまだ全然平気で動けているから僕はちょっぴりうらやましかった 「おかあさんの声はもう聞こえにくくなっているのに、寅吉、お前の声はどうして変わらずにきこえるのかな」 僕はずっと気になっていたことを寅吉に聞いてみた 「それは、簡単なことじゃないか。僕たちは心で会話してるからだよ」 「心だって?」 「そうだよ、心さ、心さえあればどこでも誰とでも話ができるんだよ、君はそんなことも知らなかったのかい?」 「お母さんの心の声だって耳をすませばたくさん聞こえてくるはずさ」 そう言われて僕は思い出したんだよ ラッキーという名前を付けてくれた時のこと たくさんいいことがあるようにね お母さんはこころでそういっていた ごはんおいしい? これもそうだ お腹が痛いとき 大丈夫? そうか!そうか!そうか! おかあさんはいつもいつも 声に出していたけれど 心でも話してくれていたんだ 僕は毎日が楽しくて楽しくて 当たり前のその心の言葉を聞き逃していたんだ 寅吉は尻尾をぶんぶん降っている僕の顔を見て いたずらっぽく 「まったく犬ってのは手がかかるな」 と笑った それからのこと・・・ お母さんは毎日ぼくに話しかけてくれる 「ラッキー」 「ラッキー大好きだよ」 ラッキー・ラッキー・ラッキー 「もうおじいちゃんだから聞こえないのかな」 残念そうに言うお母さんの声 聞こえないけど 聞こえているよ 僕はその返事のつもりで 尻尾を振って見せた 「あら、聞こえてるのね、うん、きっと聞こえてるよね・大好きなラッキー」 そうさ 聞こえてないけど聞こえているよ 心の声はずっとずっと・・・ きっとみんな心の声がある限り 聞こえてないけど・・・ 聞こえてるんだ おわり
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