とっておきのドレスを着て

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とっておきのドレスを着て

 謝肉祭(カルナヴァル)が終わって、いよいよ本番だ。  今日は、いつもより気合の入ったドレスを着る。 「駄目! これ以上は無理!」  クロエは両手を上げた。正面に立っていた少女が憮然とした顔で振り返る。 「無理じゃないでしょ、なんとかしてよ。コルセットがちゃんとしまっていなきゃ、キレイに見えないでしょ?」 「知ってる知ってる! だからね、頑張って引っ張ってるんだけど……」  言いにくいけれど、貴女のウエストをこれ以上細くするのは無理なのよ。甘いものが大好きなお腹には柔らかな脂肪がたっぷり乗っかっているの。  エヘヘ、と笑ってみせる。大きな溜め息が返された。 「仕返し。変な締め方してやる」 「あ、ご勘弁を」 「大丈夫よ。クロエなら少しくらい変な締め方してても変わらないから」 「えー!?」  抗議の声は、さして広くない部屋の中の姦しさに吸い込まれていった。  部屋には、白いシュミーズとドロワーズだけを身に付けた少女たちが四人。  隅の椅子にはどさっと、色違いのデイドレスが積み上げられている。 「家のメイドたちが、どれだけ着付けが上手だったか、身に染みたわ」 「母さんたちの我慢強さもね」 「駄目よ、音を上げちゃ。今日は絶対に頑張ってお洒落しなきゃなんだから」  誰かが誰かの背中に回って、コルセットを締め上げる。  ようやく全員が付け終わった後、今度はせっせとペチコートを履く。 「あーあ。クリノリンが欲しいなぁ……」 「まだ子供だからって認めてくれないなんて理不尽よね」 「諦めなさい。来年になったら着れるから」 「そうね。デビューが楽しみだわー」 「その前に、ちゃんと卒業しなきゃね」  頷きあって、部屋を出る。 「おかしくない?」 「平気平気」 「クロエも今日は頑張ったね」  うん、と頷いて、クロエは自分のドレスを見下ろした。  ラズベリー色の、フリルたっぷりのドレス。同じ布で作られたボンネットは、縁を白いレースで飾ってある。顎の下で結わえたリボンも白いレース。 「お茶こぼしたら、汚れちゃいそうね」 「そんな言わないで。本当こぼしちゃいそうじゃない」  頬を膨らませてみせるが、言った少女はケラケラ笑うばかりだ。 「だってクロエってば、そそっかしいし、不器用だし――なんてったって負け組だし」  クロエは小さく息を吐いて、それから笑った。  皆が笑った。  それもこれも、牽制の笑顔だ。クロエだって分かっている。
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