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――永遠に決まらなかったら、どうしよう。
長い長い話が終わる。
皆が騒めき、立ち上がる。
ここは幼い社交場。紳士が淑女に声をかける。決まったペアから退場だ。
クロエは俯いた。
「お先に」
一緒にきた友達が一人、また一人、最後の一人が席を立っていく。
もう一度、唇を噛んでから顔を上げた。見回せば、講堂に残った負け組たち。
この中から『妥協点』を探らなきゃいけない。
何度目ともしれない溜め息。
こつん、と後ろで床が鳴った。
振り返ると、斜め後ろの少年もまだ座っている。
「リュシアンも決まっていないの?」
返事はない。あったことがない。彼の声を入学以来、誰も聞いたことが無いのだ。
名を、エドガール・リュシアン・ベニシュということは、名簿を見て知った。建国の際、王の右腕として戦った騎士を初代に抱くベニシュ家の、三人いる子供の真ん中が彼だ。
蜂蜜色の髪に湖のような瞳。繊細な顔立ちで、白いシャツにクラヴァット、紺色のジレがよく似合う、すらりと伸びた体躯の少年。
きっと、その出自はこの学校に入学しないことを許さなかったのだろう。
『見た目と血筋だけはいい』というのが女子の間での評判。
――一言も喋らないから、皆気味悪がっちゃってるんだよね。
いつも一人で静かに本を読んでいる彼。
「リュシアンも決まっていないの?」
もう一度問いかける。もちろん返事はない。表情も変わらない。
ただ、水色の瞳は真っすぐに向けられている。
「卒業試験、どうするの? 誰と組むの?」
瞬く。すると、彼は本を静かに閉じて立ち上がった。
緩やかに歩み寄ってきて、右手を出される。
「……わたしと?」
大きく目を開いて、湖の色の瞳を見つめる。そこは凪いだままで、思いのほか大きな右手も差し出されたまま。
ごくりと喉を鳴らす。
そっと、自分の手を重ねる。
「じゃあ……」
白いレースが揺れる。
ゆっくりとドレスを摘まんで、左足を引て、腰を折る。
「クロエ・マニアンよ。改めて、よろしくね」
彼はしっかりと握り返してくれた。
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