一緒に行こう

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一緒に行こう

 講堂の外に出ると、しかめっ面の先生が待ち受けていた。ペアを決めたことを告げると、名簿にそれが書き込んでいく。 「リュシアンにクロエは、53番――担当教官は、セシリア・ルベル教官だ」 「ええっと…… 先生にご挨拶に行けばいいですか?」  頷かれ、リュシアンと歩き出す。  二月。春を待つ空はまだ冷たい。 「寒いね」  ショールを掛け直しながら振り返る。外套ルタンゴトを着たリュシアンはまだ無言だ。 ――このまま喋ってくれなかったら、どうやって論文の課題を決めたらいいんだろう。  学園の真ん中、三階建ての校舎の中。卒論に付き合ってくれる教官たちの部屋の前は混雑している。皆、挨拶に来ているのだ。  挨拶ついでに論文の趣旨を決める場合がほとんどだから時間がかかる。後から来た生徒ほど待たされる。 「53番ってことは後ろから数えたほうが早いんだもの。長く待ちそうよね」  ね、と声をかける。まだ無言で無表情。 ――ひええええ…… 気まずい。  廊下の壁にもたれかかって、隣に立つ少年を見上げる。  背はそこそこに高いが、何分細いから威圧感は無い。鼻も顎も薄い唇も線が細い。その繊細さに見合う、淡い髪と瞳の色と、手の動き。  なるほど、顔は良いと評されるわけだ、と納得する。  入学以来、目が合えば挨拶する程度。何が好きなのか、どんなことをしているのかは全く知らない。いつも本を読んでいるけれどと、彼が小脇に抱えた本を見た。  それは二百年前の公爵による箴言集。 「その本、わたしも読んだことある。授業で必要だったからだけど…… すごい、皮肉屋さんよね。周りの人の揚げ足取りばっかりしてて、自分はどうだったのって言ってやりたいわ」  ちらり視線が寄せられる。反応はそれだけ。クロエは溜め息を呑み込んだ。  視線が下がる。ラズベリー色のドレスが揺れる。 「クロエ、まだ終わっていないの?」  声に顔を上げると、寮で一緒におめかしをした友人の一人が正面に立っていた。  背が高くて、豊かな髪も高く結われていて、くっきりした目鼻の少女。 「シャルリーヌは終わったの?」  クロエの問いかけに、彼女は薔薇色の唇をするりと綻ばせた。 「一番に声をかけてもらったわ。今から彼とお茶をしながら計画を立てるの」  そう言って示した先に居る少年に、目を丸くする。 「ランベールと一緒にやるの?」 「そうよ」  ふふん、とシャルリーヌは胸を張った。  ランベール・エランはこの学年の出世株だ。アンヴェルス公爵の嫡男という出自に、成績優秀で、もちろん容姿も抜群。将来は国の中枢部での活躍も期待されている。  彼と組んだということは。 ――勝ち組だ、ってこと。  アイボリーに薔薇の柄という大人しそうなデザインとは裏腹のシャルリーヌの笑みは、羨望の声を期待しているのだろう。  心の裡だけで舌を出す。 「どうぞ、行ってきて。順調に進みますように」 「クロエもね――こいつとじゃ苦労すると思うけど」  また笑われる。 「負け組同士、せいぜい頑張って」  クロエは首を振る。  リュシアンは変わらず無表情。
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