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期待はある
女子寮の宛がわれた部屋に戻るなり、デイドレスを脱ぎ捨てた。コルセットもどうにか外して、部屋の隅に放り出した。
白いシュミーズとドロワーズだけの姿で、寝台に倒れ込む。すると、その傍の棚に置いた手紙が否応なく目に入った。
四角四面な文字で書かれたそれは、実家の母親から。とっくに中身は読んで、全て頭に入っている。
「ペアが決まったら一度顔を見せに来なさい、か……」
卒論のペアは重要だ。将来の結婚相手かもしれないのだから。
クロエの結婚相手とは、実家――マニアン家にとっては、大事な入り婿。跡取りだ。
以上を踏まえれば、『顔を見せに来なさい』というのは、単に『元気な顔を見せに来て』という意味でないとよく分かる。ペアとなった相手を知りたいのだ。家柄とか、人柄とか、家柄とか家柄とか。
一人娘のクロエ。大事にされてきたと感じている。甘やかされていたのだ、とも。青い空、梨畑、そして朗らかな住人達。誰もクロエの前では悪意など見せなかった。裏の顔があるなんて微塵も感じさせなかった。
例外は、次期当主の座に収まりたい従兄弟たちだ。ケーキを分けてくれなかったり、毛虫のついた葉を投げつけてきたり、スカートをめくってくるような彼らのうちの誰かと結婚するというのも、勿論アリなのだろうけど。マニアン家の為にはなっても、クロエ自身がそれが納得できなかった。だからこその、王都への進学。
笑い合える幸せを求めての決意。
リュシアンの無表情を思い出す。
「……あれこれ考えても仕方ないか」
次の週末は、リュシアンに付き合ってもらってドゥワィアンヌに帰るしかない。
「一泊で! 従兄弟たちに見つかる前に早々に帰ってこよう!」
さらにその前に。なんとか彼と意思疎通を図り、卒論の主題テーマを決めなければ。
よし、と握り拳を作って、起き上がる。
今度はアイボリーのブラウスと苺色のフレアスカートだ。
「お腹いっぱいになって、元気にならなきゃ!」
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