第一章 生きる勇気

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 カヤ、何してんだろ。  今日は、駅前のビルの屋上で奈津美を呼び出すと言ったきり、何の報告も無い。時刻はまもなく6時。そろそろ奈津美と会っているはずだ。  イラついた私は、スマホのディスプレイを指で弾いた。ま、私なんて柄じゃないんだけど。でも、自分の独白のときはなんとなく「私」って言いたくなる。 「私、か」  気付けば、自分のことを「私」と呼んでいたのは遠い過去だった。  いつから、私と言えなくなったのだろう。  どうして、私と呼べなくなったのだろう。  そんな、どうでもいいことを考えながら、またスマホを弾く。  既読すらなし。さっさと返信しろ、と言いたいところだがそうしたら私が仲間外れになる。だからただ弾くだけ。  そのときスマホが振動した。香也からのLINEだった。 カヤ:『私、』 「は?」  思わずそう呟いた。カヤも、「私」なんて言わない。それに何、この終わり方。何が言いたいんだよ。と思いつつ返信する。 はるん:『もしもしカヤさん頭だいじょーぶ?』  既読が三人分つく。 kaco:『ww』 すず:『どした?カヤ』 ユーリ:『なっちゃんは?』 ユーリ:『いないの?』  カヤは無視。既読もつかない。  ムカつく、スマホを弾く。 すず:『なっちゃん死ね(*''ω''*)』 はるん:『なっちゃんへの呪い呪呪呪呪』 ユーリ:『呪呪呪呪呪呪』 すず:『呪呪呪呪呪これコピペしてなっちゃんに送っとく(^_-)-☆』 はるん:『お願い!』 kaco:『あ、でも待ってなっちゃん死んじゃったかも。』 ユーリ:『え どゆこと』 kaco:『父親に電話入ってきてさ、盗み聞きしたら二中の二年が自殺みたいなこと言ってた』 ユーリ:『うそ』  kacoこと、利佳子の父親はスキャンダルなどを扱うような雑誌の記者をやっている。にしても、中学生のいじめ自殺なんてありきたりすぎるだろう。わざわざ記事にすることか? はるん:『なんて悲しいのかしらww』 kaco:『まだ定かじゃないけどね』 はるん:『遺書とかに名前書かれてたらめんどくせーな』 kaco:『ごめん、親父から事情徴収。一旦抜けるね』 はるん:『ボロ出すなよー』  私のこのLINEではもう既読が二人分になっていた。ユーリとすずは黙ったままだ。 はるん:『でもまだわかんねーし』 はるん:『ほら他のクラスの奴かもよ』 『ユーリが退会しました。』  は? 何ビビっちゃってんの。 はるん:『うっぜー、親にでもチクるのかよ』 はるん:『え、もしかして真に受けてんの?wwww』  しばらく放置してみるが反応は無い。 はるん:『カコのことだろ、どーせドッキリだって』 はるん:『つーか、死んでもらっても、むしろ有難いってゆーか』  既読はついているのに反応なし。一体何なんだよ。 「晴美、夕ご飯ー」  母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。なんだか煮え切らないままだが、とりあえず続きはあとにしよう。
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