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両親の様子がおかしい。香也の死を知ったのだろう。学校からだろうか。私にどう切り出すべきか迷ってるみたいだった。
そんな気まずい夕食時にあいつはやってきた。
「こんな時間に誰?」
と言いながらお母さんがインターホンをのぞく。
「はーい。あっ、かこちゃん……」
え、カコ?
「今日はちょっと……でも、その……」
「どいて」
確かに画面の向こうには利佳子がいた。
「晴美、来て」
「なんで」
「いいから」
利佳子がこちらを真っ直ぐに睨みつける。画面越しなのに、突き刺さるような視線だった。
「話したいことがある」
「無理、めんどい」
「話さなきゃいけないことがある」
「そんなん知るか」
「早く」
何でそこまでして……。
「来るまでここを動かない」
別にそこに居座ってもらっても全く構わないが、親がめんどくさいのでとりあえず下に行くことにした。
「……わかったよ」
インターホンを切って、部屋のスマホを取る。
「ちょっと、ご飯は……」
「別にいい。遅くなりそうだったら連絡する」
「え…待ちなさい!」
これまた乱暴に階段を駆け下りて、玄関のドアを開ける。そこには、
「ちょっ……何すんだよ!」
利佳子が目の前に立っていた。彼女は無言で私の腕をつかむ。
「離せっ」
それでも、利佳子は無言、無表情のままだった。
「あんただけ逃げるのは駄目だ」
……だけ?
「どういうこと。イミフなんだけど」
「今みんなすずの家にいる。もちろん侑李も」
「どうして」
「私が呼んだ。連絡網使って」
連絡網? 確かにLINEはもう機能してなかったけど、なんでそこまで……。
「反省会? 追悼会? それとも奈津美に復讐するための作戦会議?」
「違う!」
「じゃあ何なの? 最初から友達でも何でもないし、もうつるむのやめろよ! てか、私関係ないし。お前らだけで傷舐めあってろ」
「良くない! 駄目だよ、私達は一緒にいなきゃ、ダメなんだよ」
「キモイ、消えろ」
「ねえ、分かってる? 私たちが何をしたのか」
黙れ。
無理だから。
私はあんたみたいに正しい人じゃない。侑李みたいに優しい人じゃない。すずみたいに誰かを友達だと思うことさえもできない。
私はきっと、最初から人間じゃなかったから。
「痛っ」
私は利佳子の頬を平手で打って、家の方に駆けだした。気付いたらもう、家から100mほど離れていた。
「晴美!」
利佳子は追いかけてこなかった。その代わり、大声で私に言った。
「……そこに、あんたの居場所があると思ってんの」
足が止まる。
「私たち以外に、あんたと一緒に居られる人間いると思ってんの?」
体が、動かない。
「もう無理だよ。どこに居ても責められるか、問いただされるだけ」
「……それは、お前が親にチクったから?」
「違う、もう私たちは人間じゃないから」
利佳子の口調は静かだった。
「普通の人間としては生きられないから」
利佳子は泣きながら言った。
私は、泣けなかった。
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